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国際化社会を生き抜くための法律「法の適用に関する通則法」逐条徹底解説

  • 1 日前
  • 読了時間: 81分


国際化が進む現代において、この法律は「どの国の法律が適用されるのか(準拠法)」を決める極めて重要な、いわば「法律のための法律」です。一般の方には馴染みが薄いかもしれませんが、海外旅行、個人輸入、国際結婚、あるいはビジネスにおける国際契約など、私たちの生活のすぐ隣に存在しています。



なぜ「通則法」が必要なのか?


もし、日本にいながらアメリカのサイトで買い物をし、届いた商品が壊れていたら? もし、フランス人とドイツで交通事故を起こしてしまったら?こうした「複数の国が関係するトラブル(渉外関係)」が起きたとき、裁判所はまず「日本法で解決すべきか、それともアメリカ法か、フランス法か、ドイツ法か」を決めなければなりません。この「ルール選びのルール」を定めているのが、「法の適用に関する通則法」です。


第1章 総則


第1条(趣旨)


法律の第1条には、その法律が「何のために存在し、何をカバーするのか」という魂が込められています。


【条文】


この法律は、法の適用に関する通則について定めるものとする。


1. 「通則」とは何か


「通則(つうそく)」とは、文字通り「共通のルール」という意味です。通則法は、個別の具体的な事件(例えば泥棒を罰する、離婚を認める等)を直接解決する法律ではありません。そうではなく、「どの場面で、どの国の、どの法律を適用すべきか」というメタ的な判断基準を定めています。


2. 国際私法としての顔


第1条が定める「法の適用」の最大の役割は、「国際私法」としての機能です。 現代のように人や物が国籍を超えて動く社会では、「日本人がフランスでアメリカ企業と契約し、ドイツでトラブルが起きた」というような複雑なケースが生まれます。このとき、日本、フランス、アメリカ、ドイツ、どこの国の法律で裁判すべきかを決めるのが、この通則法なのです。


3. 法の適用における「基本原則」


また、後述する第2条や第3条に見られるように、国内における「法律そのものの時間的な効力」や「慣習法の扱い」といった、法体系全体に共通する基本的な手続きもこの法律の守備範囲に含まれています。


法律が命を宿す瞬間「施行期日」(第2条)


法律が国会で成立し、天皇によって「公布(世の中に知らせること)」されたとしても、すぐにその法律が効力を持つわけではありません。



第2条(法律の施行期日)


【条文】


法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。ただし、法律でこれと異なる施行期日を定めたときは、その定めによる。


1. 原則:公布から20日ルール


法律は、官報(国が発行する新聞のようなもの)に掲載されて「公布」されてから、**「20日」**が経過した時点で初めて有効になります。


  • なぜ「20日」なのか: 新しい法律ができたことを国民が知り、それに合わせて準備をする期間(周知期間)が必要だからです。もし公布と同時に罰則が始まれば、知らないうちに犯罪者になってしまう人が出るかもしれません。


2. 「公布の日」の計算方法


「起算して二十日を経過した日」の計算は、公布日を1日目としてカウントします。


  • 具体例: 4月1日に法律が公布された場合、4月20日が満了日となり、翌日の4月21日からその法律がスタート(施行)します。


3. 但書:独自の施行期日の設定


実務上のほとんどの法律(9割以上)は、この但書を使い、法律の中で個別に施行期日を定めています。


  • 「公布の日から施行する」: 緊急を要する場合。


  • 「〇年〇月〇日から施行する」: 社会への影響が大きく、長い準備期間が必要な場合(例:民法の大改正など)。


  • 「公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」: 詳細な準備状況に合わせて、後から内閣が決める場合。


【具体例:法律のスピード適用】


大規模な災害が起き、急いで被災者を支援する法律を作ったとします。この場合、20日も待っている余裕はないため、「この法律は公布の日から施行する」という特則を設けることで、即日の適用が可能になります。


第3条(法律と同一の効力を有する慣習)


法律(成文法)にすべての出来事を書き込むことは不可能です。では、法律に書いていないルールで、私たちが従っている「慣習」はどのような力を持つのでしょうか。


【条文】


公の秩序又は善良の風俗に反しない慣習は、法令の規定により認められたもの又は法令に規定されていない事項に関するものに限り、法律と同一の効力を有する。


1. 慣習法が「法律」として認められる条件


第3条は、単なるマナーや習わしが「法律と同じ力」を持つための厳格な3つの条件を示しています。


① 公序良俗に反しないこと


「公の秩序又は善良の風俗」に反する慣習は、いくら古くから続いていても法的な力は持ちません。


  • 具体例: 「特定の身分を差別する慣習」や「違法な賭博のルール」などは、どれほど定着していても第3条によって法的効力が否定されます。


② 法令の規定により認められていること


法律自体が「ここは慣習に従いなさい」と指示している場合です。


  • 具体例: 商法などでは、「商事に関し、この法律に定めのない事項については商慣習に従う」といった規定があります。


③ 法令に規定されていない事項であること


いわゆる「法の欠缺(けんけつ)」を埋める役割です。法律が全く触れていないグレーゾーンにおいて、長年守られてきた社会的ルールがあれば、それが裁判の基準となります。


2. 「法律と同一の効力」の意味


条件を満たした慣習法は、裁判において国会が作った法律と同じように扱われます。つまり、裁判官はその慣習に基づいて判決を下すことができるのです。


【具体例:取引上の慣習】


ある特定の業界で、契約書を交わさなくても「ある合図をすれば契約成立」という慣習が100年以上続いており、誰もがそれに従っているとします。もし法律に「その契約は書面でなければならない」という決まりがない場合、この「合図による成立」という慣習は、第3条により法的な有効性を持ちます。


※ 国際私法における第3条の役割


第3条は、国際的な場面でも重要です。例えば、ある国の法律を適用することになった際、その国に成文法がなく「慣習法」しかない場合でも、日本の通則法第3条の考え方を背景に、その慣習法を有効な準拠法として取り扱う理論的根拠になります。




第3章 準拠法に関する通則


第1節 人



第4条(人の行為能力)


「行為能力」とは、一人で有効な法律行為(契約など)を行うことができる資格を指します。国際的な場面では、国によって成人年齢や制限職種が異なるため、この規定が極めて重要になります。


【条文】


  1. 人の行為能力は、その本国法によって定める。


  2. 法律行為をした者がその本国法によれば行為能力の制限を受けた者となるときであっても行為地法によれば行為能力者となるべきときは、当該法律行為の当時そのすべての当事者が法を同じくする地に在った場合に限り、当該法律行為をした者は、前項の規定にかかわらず、行為能力者とみなす。


  3.  前項の規定は、親族法又は相続法の規定によるべき法律行為及び行為地と法を異にする地に在る不動産に関する法律行為については、適用しない。


1. 第1項:本国法主義の原則


第4条第1項は、「人の行為能力は、その本国法(国籍がある国の法)によって定める」と規定しています。


  • 解説: これは、その人が「成人か未成年か」「後見が必要な状態か」といった身分的な属性は、本人がどこへ行ってもその本国の法律が付き従うべきであるという「属人法(本国法)主義を象徴する規定です。


  • 具体例: A国の成人年齢が21歳である場合、19歳のA国人が日本に来て高額な時計を一人で購入しようとしても、本国法(A国法)によれば未成年であるため、原則としてこの契約は行為能力の制限を理由に取り消し得るものとなります。


2. 第2項:取引の安全を守る「行為地法」による救済


しかし、第1項を貫徹しすぎると、相手方が外国人の本国法をいちいち調べなければならず、取引が停滞してしまいます。そこで第2項は、**「取引の安全」**のための例外を設けています。


  • 要件


    1. 法律行為の当時、すべての当事者が同じ場所(同じ法域)にいたこと。


    2. その場所の法律(行為地法)によれば、その人が行為能力者(成人など)と認められること。


  • 効果: この条件を満たせば、本国法で未成年であっても、その取引においては「行為能力者とみなす」(取り消せなくなる)という強力な保護が働きます。


  • 具体例2: 先ほどの19歳のA国人の例で、彼が日本で日本人店員から時計を買った場合、日本法では18歳で成人であるため、当事者全員が日本にいる限り、A国法で未成年であっても「成人」として扱われ、取引は有効に確定します。


3. 第3項:例外の例外(適用除外)


第2項の「取引の安全」よりも、本人の家族関係や不動産の安定が重視される場面では、再び第1項の本国法主義に戻ります。


  • 適用されないケース


    1. 親族法・相続法上の行為: 結婚、認知、養子縁組、遺言などは、取引の安全よりも本人の身分関係が重要であるため、常に行為者の本国法によります。


    2. 他国にある不動産に関する行為: 土地や建物の権利関係は、その場所の法律(所在地法)との整合性が極めて重要であるため、第2項の救済は受けられません。


※行為能力の「みなし」の怖さ(第4条2項)


第4条2項の「行為能力者とみなす」規定は、一度契約が成立してしまえば、後から「実は本国の法律では未成年だった」と主張して取り消すことを一切封じ込める、非常に強力なものです。これは海外旅行者などとの対面取引において、日本の商人を守る最強の武器となります。



第5条(後見開始の審判等)



判断能力が不十分な人を保護する制度(後見、保佐、補助)について、日本の裁判所がいつ介入できるかを定めた規定です。


【条文】


裁判所は、成年被後見人、被保佐人又は被補助人となるべき者が日本に住所若しくは居所を有するとき又は日本の国籍を有するときは、日本法により、後見開始、保佐開始又は補助開始の審判(以下「後見開始の審判等」と総称する。)をすることができる。


1. 日本の裁判所の管轄と適用法


第5条は、日本の裁判所が外国人に対しても保護の審判を行える条件を明確にしています。


  • 条件(いずれか一つ)


    1. 対象者が日本に「住所」(生活の本拠)を持っている。


    2. 対象者が日本に「居所」(一時的な滞在地)を持っている。


    3. 対象者が「日本の国籍」を持っている。


  • 適用される法律: この審判を行う際、日本の裁判所は常に「日本法」を適用します。


2. なぜ本国法ではなく「日本法」なのか


本来、行為能力に関する後見等は第4条に基づき本国法によるべきですが、現在日本にいる人を緊急に保護する必要がある場合、外国の法律を調べている間に保護が遅れては本末転倒です。そのため、手続の迅速性と実効性を重視し、日本法による介入を認めています。


  • 具体例3: 日本に長期滞在しているB国人高齢者が認知症を患い、日本国内の預金の管

    理ができなくなった場合。日本の裁判所は、B国法を調べることなく、日本法に基づき後見開始の審判を行い、後見人を選任して彼を保護することができます。


※ 第5条と第35条の使い分け


第5条は、日本の裁判所が「日本法により」審判を行う手続的な入り口です。一方で、選任された後見人の権限や義務といった、審判そのものの「内容」については、第35条(後見等)が適用され、原則として被後見人の「本国法」が基準となります。 この「手続は日本法、中身は本国法」という二層構造を理解することが重要です。



第6条(失踪の宣告)


行方不明になった人の生死が長期間不明な場合、法律上死亡したものとみなして遺産相続や婚姻解消を進めるのが「失踪の宣告」です。


【条文】


  1. 裁判所は、不在者が生存していたと認められる最後の時点において、不在者が日本に住所を有していたとき又は日本の国籍を有していたときは、日本法により、失踪の宣告をすることができる。


  2. 前項に規定する場合に該当しないときであっても、裁判所は、不在者の財産が日本に在るときはその財産についてのみ、不在者に関する法律関係が日本法によるべきときその他法律関係の性質、当事者の住所又は国籍その他の事情に照らして日本に関係があるときはその法律関係についてのみ、日本法により、失踪の宣告をすることができる。


1. 第1項:一般的な失踪宣告(全般的な効力)


不在者が最後に行方不明になった時点で、「日本に住所があった」「日本国籍を持っていた」日本法を適用して、その人のすべての法律関係について失踪の宣告を行うことができます。


  • 解説: これにより、その人が世界中に持っている財産の相続や、配偶者との婚姻関係の解消などが、一括して進められるようになります。


2. 第2項:限定的な失踪宣告(特定の財産や法律関係のみ)


第1項の条件を満たさない外国人であっても、日本に何らかの繋がりがある場合には、「その繋がりがある範囲に限って」、日本の裁判所は失踪の宣告を行うことができます。


  • ケース1(財産): 外国人が日本に銀行口座や不動産を残して母国で行方不明になった場合、日本の裁判所は**「日本にあるその財産を処理するためだけ」**に、失踪の宣告ができます。


  • ケース2(法律関係): 例えば、行方不明の外国人が日本の企業と日本法を準拠法とする契約を結んでいた場合、その「特定の契約関係を整理するためだけ」に、失踪の宣告ができます。


※第6条2項


「財産についてのみ」という限定的失踪宣告は、放置された外国人の資産による経済的停滞(いわゆる所有者不明地問題など)を防ぐための実務的な知恵です。


※第6条2項「法律関係」の具体性


第6条2項は、行方不明者が日本に財産を持っていなくても、日本法が準拠法となる法律行為(例えば日本企業との雇用契約など)を結んでいた場合に、その契約を終わらせるために失踪宣告を出すことを可能にします。 これは、残された日本側の当事者が、相手の生死不明によって契約が「塩漬け」になるのを防ぐための極めて重要なセーフティネットです。



第2節 法律行為


第7条(当事者による準拠法の選択)


ここからは「法律行為(主に契約)」のセクションに入ります。第7条は、国際私法の中で最も輝かしい原則である「当事者自治の原則」を規定しています。


【条文】

 

法律行為の成立及び効力は、当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法による。


1. 自由な準拠法選択


第7条は、契約の当事者が「私たちの契約は、〇〇国の法律に従おう」と合意したなら、その意思を最大限に尊重することを定めています。これを当事者自治と呼びます。


  • 「成立及び効力」: 契約が有効に結ばれたか(成立)、どのような義務が生じるか(効力)、解約はどうするか等、すべてが含まれます。


  • 「当時に選択した」: 基本的には契約を結ぶ瞬間に決めるべきですが、後から決めることも解釈上認められています(第9条参照)。


2. 合意の形式


この「選択」は、契約書に明記される(明示的選択)のが一般的ですが、契約の内容や状況から「当然、この国の法律のつもりだよね」と推認される(黙示的選択)場合も含みます。


【具体例3:日本企業とアメリカ企業のシステム開発】


日本企業とアメリカ企業が、シンガポールでプロジェクトを行うことになりました。


  • 両社は話し合い、「日本法でもアメリカ法でもなく、中立的なシンガポール法を準拠法にしよう」と契約書に記載しました。


  • 第7条により、この契約から生じるトラブルは、すべてシンガポールの法律に従って解決されることになります。



第8条(当事者による準拠法の選択がない場合)

当事者が準拠法を決めなかった場合、裁判所はどう判断すべきか。その答えが第8条です。


【条文】


  1. 前条の規定による選択がないときは、法律行為の成立及び効力は、当該法律行為の当時において当該法律行為に最も密接な関係がある地の法による。


  2.  前項の場合において、法律行為において特徴的な給付を当事者の一方のみが行うものであるときは、その給付を行う当事者の常居所地法(その当事者が当該法律行為に関係する事業所を有する場合にあっては当該事業所の所在地の法、その当事者が当該法律行為に関係する二以上の事業所で法を異にする地に所在するものを有する場合にあってはその主たる事業所の所在地の法)を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する。


  3. 第一項の場合において、不動産を目的物とする法律行為については、前項の規定にかかわらず、その不動産の所在地法を当該法律行為に最も密接な関係がある地の法と推定する。


1. 第1項:最密接関係地法


準拠法の選択がない場合、その契約と「最も関係が深い場所(最密接関係地)」の法律を適用します。しかし、「最も関係が深い」というのは抽象的で分かりにくいものです。そこで第2項と第3項が具体的な「推定ルール」を提供しています。


2. 第2項:特徴的給付理論


多くの契約において、一方は「お金を払う」、他方は「サービスや商品を提供する」という役割分担があります。お金は世界共通ですが、サービスや商品はその国の個性が出ます。これを「特徴的な給付」と呼び、「その給付を行う側の拠点がある場所」を最密接関係地と推定します。


  • 事業所がある場合: その事業所の所在地法。


  • 事業所がない場合: その人の常居所地法(普段住んでいる場所)。


3. 第3項:不動産の例外(所在地法)


不動産(土地・建物)の売買や賃貸の場合、第2項のルールよりも「その不動産がどこにあるか(所在地)」の方が圧倒的に重要です。そのため、不動産取引については一律に「所在地法」を最密接関係地と推定します。


【具体例:イタリアの家具を日本で購入した場合】


日本の個人客が、イタリアの家具メーカーから直接ソファーを購入しました。準拠法の指定は特にありませんでした。


  • この契約における「特徴的な給付」は、メーカーによる「ソファーの製作・配送」です。


  • 第8条第2項により、この給付を行うメーカーの事業所があるイタリア法が、この契約の準拠法であると推定されます。

 

第8条における「反証」の可能性


第8条2項・3項はあくまで「推定」です。もし、「給付者の拠点よりも、契約の履行場所や交渉場所の方が圧倒的に重要だ」と証明できれば、推定を覆して別の地の法を適用することも理論上は可能です。



第9条(当事者による準拠法の変更)


【条文】


当事者は、法律行為の成立及び効力について適用すべき法を変更することができる。ただし、第三者の権利を害することとなるときは、その変更をその第三者に対抗することができない。


1. 「事後的」な当事者自治の承認


第7条で認められた「当事者による準拠法の選択」を、契約成立後であっても認めるのが本条の趣旨です。国際私法においては、当事者が自らの意思で適用法を決める「当事者自治の原則」が基本ですが、第9条はその意思を「固定」せず、「流動的かつ継続的」に認めることを宣言しています。




1.

但書の「第三者保護」


第9条で最も慎重な運用が求められるのが、「ただし、第三者の権利を害することとなるときは、その変更をその第三者に対抗することができない」という但書です。


1. なぜ制限が必要なのか


準拠法が変わると、契約の内容や優先順位が激変することがあります。当事者二人が勝手に法律を変えたせいで、その契約を信じて利害関係を持った外部の人が損をすることは、正義に反します。


2. 「対抗することができない」の意味


これは、変更自体が無効になるわけではありません。「当事者間」では新しい法律が有効ですが、「その第三者との関係」においては、あたかも変更がなかったかのように、「旧準拠法」が適用され続けることを意味します。


【具体例:債権の二重譲渡と準拠法】


  • 状況: 日本企業Xが、フランス企業Yに対して持っている債権の準拠法を「日本法」としていました。


  • 第三者の登場: 第三者Zが、この日本法に基づく債権をXから差し押さえました。


  • 変更の試み: その後、XとYが「準拠法をフランス法に変更しよう」と合意しました。


  • 結果: フランス法に変えたことで、差し押さえの効力が弱まるなどの不利益がZに生じる場合、Zに対しては第9条但書により「フランス法への変更」を主張できません。Zとの関係では依然として日本法が適用され、Zの権利は守られます。


第10条(方式)との精緻なリンク


第9条を語る上で欠かせないのが、次条である第10条(法律行為の方式)との関係です。


【関連条文の精査】


【条文 第10条】 法律行為の方式は、当該法律行為の成立について適用すべき法(当該法律行為の後に前条の規定による変更がされた場合にあっては、その変更前の法)による。


第10条第1項は、契約の「形(署名が必要か、書面が必要か等)」については、たとえ第9条で準拠法を変えたとしても、「変更前の法律」によると定めています。


  • 理屈: もし準拠法を変えた瞬間に、過去の「契約書の形」の有効性まで新しい法律でチェックし直すことになると、せっかく成立していた契約が「新しい法律の書式に合っていないから無効だ」というパニックが起きてしまいます。これを防ぐため、方式については「昔の法」を維持するのです。



※遡及効果の範囲(いつからの変更か)


第9条に基づく変更は、原則として「契約締結時」まで遡って適用されます(遡及的変更)。しかし、当事者が「これからのことだけ変えよう(将来に向けた変更)」と合意することも自由です。この意思表示の解釈が実務では重要になります。


※強行規定(第11条・第12条)による修正


消費者契約(第11条)や労働契約(第12条)においては、第9条による準拠法の変更が制限されることがあります。事業者が労働者や消費者に対し、「自分たちに都合の良い法律に変えよう」と圧力をかけることを防ぐための安全装置です。


【具体例:労働条件の「一方的」な変更への対抗】


日本に支社を持つ外国企業が、労働者との契約準拠法を「日本法」から、解雇規制が極めて緩い「自国法」に変更しようとした場合。第12条により、労働者は「日本法の強行規定を適用せよ」と主張することで、第9条による変更を実質的に無力化し、自分を守ることができます。




第10条(法律行為の方式)


【条文】


  1.  法律行為の方式は、当該法律行為の成立について適用すべき法(当該法律行為の後に前条の規定による変更がされた場合にあっては、その変更前の法)による。


  2. 前項の規定にかかわらず、行為地法に適合する方式は、有効とする。


  3. 法を異にする地に在る者に対してされた意思表示については、前項の規定の適用に当たっては、その通知を発した地を行為地とみなす。


  4. 法を異にする地に在る者の間で締結された契約の方式については、前二項の規定は、適用しない。この場合においては、第一項の規定にかかわらず、申込みの通知を発した地の法又は承諾の通知を発した地の法のいずれかに適合する契約の方式は、有効とする。


  5. 前三項の規定は、動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利を設定し又は処分する法律行為の方式については、適用しない。


法律の世界には、内容(中身)が正しくても、その「形(方式)」が整っていなければ無効になってしまうというルールがあります。国際的な取引では、「サインだけでいいのか」「実印が必要か」「公証人の立ち会いが必要か」といった「方式」の衝突が頻繁に起こります。これを解決するのが第10条です。


第10条第1項:原則は「中身の法」に従う


【条文10条1項】

法律行為の方式は、当該法律行為の成立について適用すべき法(当該法律行為の後に前条の規定による変更がされた場合にあっては、その変更前の法)による。


【解説】


法律行為(契約など)の「方式」は、原則としてその契約の「成立と効力」を支配する法律(成立地法・準拠法)に従います。


  • 「変更前の法」という重要ルール: 第9条に基づき、後から準拠法を変更した場合でも、方式については「最初に契約した時の法律」を基準にします。これは、後から法律を変えたせいで、当時に整えたサインや書面が遡って無効になるという混乱を防ぐためです。


【具体例】


日本企業Aとアメリカ企業Bが、「ニューヨーク州法」を準拠法として契約を結んだ場合、その契約書にサインが必要か、それとも捺印が必要かといった「方式」は、ニューヨーク州法に従って判断します。後日、準拠法を日本法に変更したとしても、契約締結時の「方式」の有効性はニューヨーク州法で判断されたまま維持されます。

第10条第2項:場所のルール(行為地法)の許容


【条文10条2項】

前項の規定にかかわらず、行為地法に適合する方式は、有効とする。


【解説】


第1項の原則(中身の法)が難しくても、「実際にその行為が行われた場所(行為地)」の法律に従っていれば、それは有効な方式として認められます。これを「場所は行為を支配する(Locus regit actum)」という国際私法の古くからの原則と呼びます。


【具体例】


日本法が準拠法の契約を、日本人がドイツへ出張中、ドイツ人と現地で締結したとします。本来は日本法の方式に従うべきですが(1項)、ドイツの法律(行為地法)で定められた方式(例:ドイツの公証人の前で署名する等)を完璧に満たしていれば、日本法上も有効な方式として認められます。

第10条第3項:離れた場所での意思表示(行為地の擬制)


【条文10条3項】

法を異にする地に在る者に対してされた意思表示については、前項の規定の適用に当たっては、その通知を発した地を行為地とみなす。


【解説】


相手が遠くにいる場合(隔地者間)の「行為地」はどこか?という問いに答える条項です。「通知を発信した場所」を行為地とみなします。


【具体例】


フランスにいるCさんが、日本にいるDさんに宛てて「契約を解除します」という通知(意思表示)を郵送した場合、その解除の「方式(書面が必要か等)」については、通知をポストに投函した「フランス」が行為地となります。したがって、フランスの法律の方式に従っていれば有効です。


第10条第4項:遠隔地間の契約(柔軟な選択肢)


【条文10条4項】

法を異にする地に在る者の間で締結された契約の方式については、前二項の規定は、適用しない。この場合においては、第一項の規定にかかわらず、申込みの通知を発した地の法又は承諾の通知を発した地の法のいずれかに適合する契約の方式は、有効とする。


【解説】


遠く離れた者同士が契約を結ぶ場合(例:東京とロンドン)、第2項や第3項をそのまま使うと不便です。そこで、「申込みを送った国」または「承諾を送った国」のどちらかの法律の方式を満たしていればOKという、非常に柔軟なルールを設けています。


【具体例】


東京の企業Eがロンドンの企業Fに対し、メールで契約を申し込み、Fがロンドンから承諾の返信をした場合(準拠法はアメリカ法と仮定)。 この契約の方式は、以下のいずれかに適合していれば有効です。


  1. アメリカ法(第1項:準拠法)


  2. 日本法(第4項:申込みの通知を発した地の法)


  3. イギリス法(第4項:承諾の通知を発した地の法)


このように、どれか一つの国の方式をクリアしていれば契約を有効に成立させ、国際取引をスムーズにします。

第10条第5項:不動産などの例外(所在地法の絶対性)


【条文10条5項】

前三項の規定は、動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利を設定し又は処分する法律行為の方式については、適用しない。


【解説】


ここが最も注意すべきポイントです。土地や建物の売買、あるいは登記が必要な権利(抵当権の設定など)については、第2項〜第4項の「行為地法」や「発信地法」といった便利なルールは使えません。 これらは、第13条(所在地法)などに基づく厳格な方式(通常はその物件がある場所の法律)に従う必要があります。


【具体例】


日本人がタイにある別荘を、フランス旅行中に売買契約したとします。


  • 契約の内容(代金の支払い等)は、行為地であるフランス法や日本法を選べるかもしれません。


  • しかし、タイの別荘の「所有権移転の方式(登記の形式など)」については、第10条第2項(行為地フランス)や第4項のルールは適用されません。タイにある物件の権利を動かすための「形」は、タイの法律が求める厳格な方式に従うしかないのです。



第11条(消費者契約の特例)



【条文】(第1項)


消費者(個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。以下この条において同じ。)と事業者(法人その他の社団又は財団及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。以下この条において同じ。)との間で締結される契約(労働契約を除く。以下この条において「消費者契約」という。)の成立及び効力について第七条又は第九条の規定による選択又は変更により適用すべき法が消費者の常居所地法以外の法である場合であっても、消費者がその常居所地法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を事業者に対し表示したときは、当該消費者契約の成立及び効力に関しその強行規定の定める事項については、その強行規定をも適用する。


1. 消費者・事業者の定義と保護の核心(第1項)


【解説と具体例】


  • 定義: 仕事用ではなく私生活のために契約する「個人」が消費者であり、会社や商売として契約する個人が事業者です。


  • 仕組み: 契約書で「アメリカ法を準拠法とする」と合意(第7条・第9条)していても、日本の消費者が「日本の消費者契約法のこのルール(強行規定)を適用してほしい」と言えば、そのルールが外国法に上書きして適用されます。


  • 具体例: イギリスのサイトで高額なブランド品を買い、規約に「いかなる理由でもキャンセル不可」とあっても、日本の消費者が「日本の消費者契約法にある不当な条項の無効規定を適用する」と主張すれば、日本法による保護を受けられます。



【条文】(第2項)


消費者契約の成立及び効力について第七条の規定による選択がないときは、第八条の規定にかかわらず、当該消費者契約の成立及び効力は、消費者の常居所地法による。


2. 準拠法の選択がない場合の自動保護(第2項)


【解説と具体例】


  • 仕組み: 契約で準拠法を選んでいない場合、通常なら「事業者の所在地法」が推定されます(第8条2項)。しかし消費者契約では、自動的に「消費者の住んでいる場所の法」が適用されます。


  • 具体例: シンガポールの業者が運営するアプリを利用し、準拠法の指定がなかった場合。トラブルが発生すれば、当然に日本法が適用され、日本の法律に基づいて解決が図られます。



【条文】(第3項)


消費者契約の成立について第七条の規定により消費者の常居所地法以外の法が選択された場合であっても、当該消費者契約の方式について消費者がその常居所地法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を事業者に対し表示したときは、前条第一項、第二項及び第四項の規定にかかわらず、当該消費者契約の方式に関しその強行規定の定める事項については、専らその強行規定を適用する。



3. 「方式(形)」に関する消費者の選択権(第3項)


【解説と具体例】


  • 仕組み: 契約を「書面でするか」などの方式についても、消費者が「自分の国の強いルールを使いたい」と言えば、それが絶対的なルール(専ら適用)となります。


  • 具体例: 外国法では口頭で有効な契約でも、日本の法律(特定商取引法など)で「特定の書面を交付しなければならない」という強行規定がある場合、消費者がそれを求めれば、書面がない契約は有効な方式を満たさないことになります。



【条文】(第4項)


消費者契約の成立について第七条の規定により消費者の常居所地法が選択された場合において、当該消費者契約の方式について消費者が専らその常居所地法によるべき旨の意思を事業者に対し表示したときは、前条第二項及び第四項の規定にかかわらず、当該消費者契約の方式は、専ら消費者の常居所地法による。



4. 方式の排他的適用(第4項)


【解説と具体例】


  • 仕組み: 最初から「自分の国の法」を準拠法に選んでいる場合、消費者が「方式も完全に自分の国の法だけでやってほしい」と言えば、第10条にある「行為地の法でもいい」という柔軟なルールを排除し、自分の国の法だけに従わせることができます。


  • 具体例: 海外旅行中に日本の業者と契約する際、「方式は日本のルールだけに絞りたい」と言えば、現地の法律の方式を気にする必要がなくなります。



【条文】(第5項)


消費者契約の成立について第七条の規定による選択がないときは、前条第一項、第二項及び第四項の規定にかかわらず、当該消費者契約の方式は、消費者の常居所地法による。



5. 方式のデフォルトルール(第5項)


【解説と具体例】


  • 仕組み: 準拠法を選んでいない場合、契約の「方式」も自動的に消費者の住んでいる場所の法に一本化されます。


  • 具体例: 海外のサイトで特に契約方法の指定がない場合、日本の法律が求める方式(サインや書面など)に従っていれば、法的に安心な状態が確保されます。



【条文】(第6項)


前各項の規定は、次のいずれかに該当する場合には、適用しない。


※消費者保護が適用されない「特例の除外」(第6項第1号〜第4号)


これまでの手厚い保護も、以下のような「事業者が消費者の居場所を予測できなかった場合」などには適用されません。



【条文】(第6項第1号)


事業者の事業所で消費者契約に関係するものが消費者の常居所地と法を異にする地に所在した場合であって、消費者が当該事業所の所在地と法を同じくする地に赴いて当該消費者契約を締結したとき。ただし、消費者が、当該事業者から、当該事業所の所在地と法を同じくする地において消費者契約を締結することについての勧誘をその常居所地において受けていたときを除く。


自ら店舗へ出向いた場合


【解説】


日本人がフランスの店舗に直接行って買い物をするなら、フランス法に従うのが当然であり、日本の保護ルールは適用されません。ただし、日本で勧誘を受けてフランスへ行った場合は、やはり保護されます。



【条文】(第6項第2号)


事業者の事業所で消費者契約に関係するものが消費者の常居所地と法を異にする地に所在した場合であって、消費者が当該事業所の所在地と法を同じくする地において当該消費者契約に基づく債務の全部の履行を受けたとき、又は受けることとされていたとき。ただし、消費者が、当該事業者から、当該事業所の所在地と法を同じくする地において債務の全部の履行を受けることについての勧誘をその常居所地において受けていたときを除く。


現地で全ての履行を受けた場合


解説】


現地のホテルに泊まり、そこで全てのサービスを受け終えるような場合です。これも、日本で事前に勧誘を受けていた場合を除き、現地の法が優先されます。



【条文】(第6項第3号)


消費者契約の締結の当時、事業者が、消費者の常居所を知らず、かつ、知らなかったことについて相当の理由があるとき。


消費者の住んでいる場所を知らなかった場合


【解説】 


事業者が「この人は現地の人だ」と信じても仕方のない状況だった場合、消費者の国の法律を押し付けるのは事業者にとって酷であるため、保護が外れます。



【条文】(第6項第4号)


消費者契約の締結の当時、事業者が、その相手方が消費者でないと誤認し、かつ、誤認したことについて相当の理由があるとき。


相手が消費者だと思わなかった場合


【解説】


消費者が「会社名義」で契約したり、「ビジネス目的だ」と嘘をついたりして、事業者が相手をプロ(事業者)だと信じた場合、この強力な消費者保護は適用されません。



第12条(消費者契約の特例)


【条文】(第1項)


労働契約の成立及び効力について第七条又は第九条の規定による選択又は変更により適用すべき法が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法以外の法である場合であっても、労働者が当該労働契約に最も密接な関係がある地の法中の特定の強行規定を適用すべき旨の意思を使用者に対し表示したときは、当該労働契約の成立及び効力に関しその強行規定の定める事項については、その強行規定をも適用する。


 労働者による「強行規定」適用の選択(有利なルールの確保)


この項は、たとえ契約で「〇〇国の法律に従う」と決めていても、労働者が実際に働いている地の有利なルール(強行規定)を「選んで使う」ことができる権利を認めています。


  • 規定の内容: 当事者が合意によってある国の法(例:日本法)を準拠法として選んだ場合でも、労働者が「自分に最も密接な関係がある地の法(通常は働いている場所の法)」の中にある特定の強行規定を適用したいと雇い主に伝えれば、その事項についてはその強行規定が適用されます。


  • 強行規定の具体例: 解雇の制限、最低賃金、労働時間の上限、安全衛生基準など、その国の政策上、当事者の合意に関わらず強制的に適用されるルールのことです。


    具体的ケース


    • 状況: 日本企業がフランスの現地で労働者を雇い、契約書に「準拠法は日本法とする」と記載した。


    • 問題: 日本法では有効な解雇であっても、フランスの労働法(強行規定)では不当解雇にあたる場合。


    • 特例の適用: 労働者が「フランス法の解雇制限規定を適用してほしい」と意思表示すれば、日本法を選んでいても、フランスの厳しい解雇制限ルールが優先して適用されます。



【条文】(第2項)


前項の規定の適用に当たっては、当該労働契約において労務を提供すべき地の法(その労務を提供すべき地を特定することができない場合にあっては、当該労働者を雇い入れた事業所の所在地の法。次項において同じ。)を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。


「最も密接な関係がある地の法」の判断基準


第1項で出てきた「最も密接な関係がある地の法」が具体的にどこを指すのか、その判定基準を定めています。


  • 規定の内容: 原則として「労務を提供すべき地の法(実際に働く場所の法)」を、労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定します。


  • 例外(場所が特定できない場合): 飛行機の客室乗務員や国際運輸のドライバーのように、働く国が頻繁に変わり、特定の労務提供地を定められない場合は、「労働者を雇い入れた事業所の所在地の法」が最も密接な法であると推定されます。


    具体的ケース


    • シンガポールの支店に採用されてそこで勤務しているなら、シンガポール法が「最も密接な法」となります。


    • 一方、日本の本社に採用されたパイロットが世界中を飛び回っている場合、特定の労務地が定まらないため、採用した日本の本社の所在地法(日本法)が「最も密接な法」とみなされます。



【条文】(第3項)


労働契約の成立及び効力について第七条の規定による選択がないときは、当該労働契約の成立及び効力については、第八条第二項の規定にかかわらず、当該労働契約において労務を提供すべき地の法を当該労働契約に最も密接な関係がある地の法と推定する。


準拠法の選択がない場合の自動適用


契約書に「どの国の法律を適用するか」という記載(準拠法の選択)が一切なかった場合のルールです。


  • 規定の内容: 準拠法の選択がない場合、通常の契約(第8条第2項)であれば「特徴的な給付を行う側(労働契約では労働者)」の常居所地法が基準となりますが、労働契約の特例として、「労務を提供すべき地の法」を最も密接な法として推定し、それがそのまま準拠法となります。


  • 具体的ケース


    • アメリカ人が、準拠法を決めずに日本の工場で働く契約を結んだ場合。


    • 通常ルールなら「労働者の住んでいる国(アメリカ)」の法が検討されますが、第12条第3項の特例により、実際に働く場所である「日本法」が準拠法であると推定されます。



第12条のポイントは、「労働者が自分の働いている場所の法律による保護を奪われないようにすること」にあります。


  1. 脱法の防止: 使用者が自分に都合の良い(労働者保護が薄い)国の法律を押し付けても、労働者は現地の強い保護ルール(強行規定)を呼び出すことができます。


  2. 予見可能性: 労働者にとって、自分が今生活し、働いている場所の法律が適用されるのが最も自然で安心だからです。


この規定により、国際的な労働契約においても、労働者は「労務提供地」の法律という安全網に守られる仕組みになっています。



第三節 物権等



国際的な取引において、土地や建物、あるいは動産がどこの国の法律に支配されるかは、権利の安定のために極めて重要です。


物権に関する準拠法



第13条(物権及びその他の登記をすべき権利)



【条文】(第1項)


動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利は、その目的物の所在地法による。 



所在地法主義の原則


この規定は、土地、建物(不動産)や、時計、車、あるいは宝石(動産)といった「物」に対する直接的な支配権(物権)について、「その物が今どこにあるか」という物理的な場所の法律を適用することを定めています。


なぜ「所在地法」なのか?


物権は、誰に対しても主張できる強い権利です。そのため、その権利が公に認められているか(公示)が重要になります。土地であれば現地の不動産登記簿、動産であれば現地の占有状態を確認するのが最も確実です。したがって、その場所の法律に従うのが、取引の安全と第三者への不測の損害防止に最適なのです。


「その他の登記をすべき権利」とは


民法上の物権(所有権、抵当権、質権など)だけでなく、例えば日本の「鉱業権」や、特許法の「実施権」など、法律によって登記・登録が対抗要件や成立要件とされている権利も含まれます。


【具体例:海外不動産の抵当権】


日本企業A社が、シンガポールにあるビルを担保に、現地の銀行から融資を受けるとします。このとき、そのビルに「抵当権(物権)」が有効に設定できるか、どのような優先順位を持つかは、A社が日本企業であっても、シンガポール法(所在地法)によって決まります。


【条文】(第2項)


前項の規定にかかわらず、同項に規定する権利の得喪は、その原因となる事実が完成した当時におけるその目的物の所在地法による。


権利変動(得喪)と時間的要素


第2項は、権利の「得喪(取得、変更、消滅)」について、「いつの時点の所在地法か」という時間的な問題を解決します。権利が動く原因となった事実が「完成」した瞬間に、その物が存在した場所の法律を適用します。


動産が移動する場合の重要性


不動産は動きませんが、動産は国境を越えて移動します。


  • ケース: ドイツから日本へ向けて輸送中の高級機械。


  • 状況: トランジット(経由地)であるタイの倉庫に保管されている間に、売買契約に基づき所有権が移転したとします。


  • 結論: この所有権移転が有効かどうか、いつ移転するかは、原因事実(引渡しなど)が完成した時点での所在地であるタイ法によって判断されます。


【具体例:時効取得】

アメリカに住むBさんが、日本にある美術品を「自分のものだ」と信じて長年占有し、時効による所有権取得を主張したとします。時効期間が満了した(原因事実が完成した)瞬間に、その美術品が日本にあれば、日本法によって所有権の取得が認められるかどうかが決まります。



第4節 債権



ここからは、当事者間にあらかじめ契約がないにもかかわらず債権(支払い請求権など)が発生する「法定債権」について解説します。



第14条(第事務管理と不当利得)



【条文】


事務管理又は不当利得によって生ずる債権の成立及び効力は、その原因となる事実が発生した地の法による。


【解説】


契約がない関係において、最も予測可能性が高いのは「その出来事が起きた場所」です。


  • 事務管理: 義務がないのに他人のために事務を行うこと。


    (例)海外旅行中、隣の部屋の外国人が倒れていたので勝手に鍵を開けて救急車を呼び、病院代を立て替えた。


  • 不当利得: 法律上の原因なく他人の財産によって利益を受け、他人に損失を与えること。


    (例)銀行が間違って他人の海外口座に送金してしまった。


第14条は、これらの請求権が認められるかどうか、またいくら請求できるかという「成立と効力」を、「原因となる事実が発生した地の法」に委ねます。


【具体例:誤送金トラブル】


日本のC社が、フランスの取引先に支払うべき100万ユーロを、手違いでベトナムのD社の口座に振り込んでしまったとします。D社に対する「不当利得返還請求」の準拠法は、利益がD社の口座に入った(原因事実が発生した)地であるベトナム法となります。



第15条(明らかに密接な関係がある地がある場合の例外)



第14条の「発生地」という機械的な基準を適用すると、当事者の実態とかけ離れてしまうことがあります。そこで、例外規定が設けられています。


【条文】


前条の規定にかかわらず、事務管理又は不当利得によって生ずる債権の成立及び効力は、その原因となる事実が発生した当時において当事者が法を同じくする地に常居所を有していたこと、当事者間の契約に関連して事務管理が行われ又は不当利得が生じたことその他の事情に照らして、明らかに同条の規定により適用すべき法の属する地よりも密接な関係がある他の地があるときは、当該他の地の法による。


【解説】「明らかにより密接な関係」の判断基準


単なる「発生地」よりもふさわしい法律がある場合、それを優先します。通則法は、以下の2点を重要な考慮要素として挙げています。


  1. 共通の常居所地: 加害者(利得者)と被害者(損失者)が、たまたま外国にいただけで、普段は同じ国に住んでいる場合。


  2. 既存の契約関係: 全くの他人ではなく、もともと契約関係があり、その契約に関連して事務管理や不当利得が生じた場合。


【具体例:日本人同士の海外での助け合い】


ともに日本に住む日本人観光客EさんとFさんが、スイスを旅行中、Eさんが雪山で遭難し、Fさんが多額の費用をかけて民間救助隊を呼び、Eさんを救済しました(事務管理)。


  • 第14条によれば、発生地はスイスです。


  • しかし、第15条により、両者が日本に常居所(生活の本拠)を有していることから、日本法が「より密接な関係がある地の法」として適用されることになります。



第16条(当事者による準拠法の変更)


不法行為や契約とは異なり、事務管理や不当利得は「いつの間にか発生している」ものです。そのため、発生した後に当事者が話し合って適用する法律を決めることを認めています。


【条文】


事務管理又は不当利得の当事者は、その原因となる事実が発生した後において、事務管理又は不当利得によって生ずる債権の成立及び効力について適用すべき法を変更することができる。ただし、第三者の権利を害することとなるときは、その変更をその第三者に対抗することができない。


【解説】当事者自治の尊重

トラブルが起きた後、「スイス法で争うのは大変だから、お互いに馴染みのある日本法で解決しよう」と合意することが可能です。これは紛争解決をスムーズにするための知恵です。


【注意点:第三者の保護】

ただし、当事者二人が勝手に法律を選び直したことで、その債権を差し押さえようとしている第三者などの権利を侵害することは許されません。



第17条(不法行為)



不法行為における準拠法の決定において、世界的に最も標準的な考え方は「不法行為地法(lex loci delicti)」です。しかし、通則法はこの「地」をさらに細かく定義しています。


【条文】


不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。ただし、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、加害行為が行われた地の法による。


1. 原則:結果発生地主義


第17条本文は、「加害行為の結果が発生した地の法」を準拠法としています。これを「結果発生地主義」と呼びます。加害者がどこで行動したか(加害行為地)よりも、被害者が現実に損害を被った場所の法で保護するのが公平であるという考え方が背景にあります。


  • 「成立及び効力」とは: 不法行為が成立するかどうか、損害賠償の範囲はどうなるか、過失相殺ができるか、慰謝料の額はどう決まるか、といった事項すべてが含まれます。


  • 「結果が発生した地」の具体例: 例えば、国境付近のA国からB国に向けて有害物質が流され、B国の住民が健康被害を受けた場合、準拠法はB国法となります。


2.予見可能性による例外:(加害行為地法への回帰)


【 ただし書の解説】


ただし、何でもかんでも結果発生地にしてしまうと、加害者にとって酷な場合があります。そこで但書は、「結果の発生が通常予見することのできないものであったとき」には、

「加害行為が行われた地の法」によると定めています。


「通常予見することのできない」という判断は非常に厳格です。単に「知らなかった」では済まされず、「客観的に見て、その地で結果が生じる、あるいは引渡しが行われることが予測できたか」が問われます。


【具体例1:予測不能な損害】


日本国内で活動している芸術家Aが、自身の作品を日本国内の展示会で発表しました。ところが、その作品の一部が偶然にもC国の宗教的タブーに触れており、C国で画像が拡散された結果、C国の信者の感情を害したとして訴えられたとします。 もし、Aにとって「日本で発表した作品がC国で法的な問題(不法行為)を引き起こすこと」が通常予見できないのであれば、結果が発生したC国の法律ではなく、加害行為が行われた日本法が適用されます。



第18条(生産物責任(PL)の特例)



製品の欠陥による損害(プロダクト・ライアビリティ)は、現代の国際取引で最も頻発するトラブルの一つです。第17条の原則だけでは不十分なため、第18条で特例が設けられています。


【条文】


前条の規定にかかわらず、生産物(生産され又は加工された物をいう。以下この条において同じ。)で引渡しがされたものの瑕疵(かし)により他人の生命、身体又は財産を侵害する不法行為によって生ずる生産業者(生産物を業として生産し、加工し、輸入し、輸出し、流通させ、又は販売した者をいう。以下この条において同じ。)又は生産物にその生産業者と認めることができる表示をした者(以下この条において「生産業者等」と総称する。)に対する債権の成立及び効力は、被害者が生産物の引渡しを受けた地の法による。ただし、その地における生産物の引渡しが通常予見することのできないものであったときは、生産業者等の主たる事業所の所在地の法(生産業者等が事業所を有しない場合にあっては、その常居所地法)による。,


1. 原則:引渡地法


生産物責任においては、結果が発生した地(事故が起きた場所)ではなく、「被害者が生産物の引渡しを受けた地の法」が原則となります。


  • なぜ「引渡地」なのか: 消費者が自分の居住国で購入(引渡し)した製品については、自国法(引渡地法)による保護を期待するのが通常だからです。また、メーカー側にとっても、製品を出荷・販売した地域の法律に従うことは予測可能です。


  • 「生産業者等」の広範な定義: メーカーだけでなく、輸入業者、輸出業者、流通業者、販売業者、さらにはOEM製品のように自分の名前を表示した者(表示責任者)まで幅広く含まれます。

2.但書:予見可能性による例外


もし、被害者がその場所で製品を受け取ることが、生産業者側にとって予見できなかった場合は、「生産業者等の主たる事業所の所在地の法」(事業所がなければ常居所地法)によります。


「通常予見することのできない」という判断は非常に厳格です。単に「知らなかった」では済まされず、「客観的に見て、その地で結果が生じる、あるいは引渡しが行われることが予測できたか」が問われます。


【具体例:個人輸入や転売のケース】


ドイツのメーカーD社が、ドイツ国内でのみ使用することを前提に家電を販売しました。これを購入したユーザーが個人的に日本へ持ち込み(D社が予見できない引渡し)、そこで火災が発生したとします。 この場合、日本(引渡地)での引渡しをD社が予見できないのであれば、日本法ではなく、D社の本拠地があるドイツ法が適用されます。



第19条(名誉又は信用の毀損の特例)



インターネットの普及により、一箇所への投稿が世界中で閲覧可能となりました。これに伴い、名誉毀損の準拠法決定には特殊なルールが必要となりました。


【条文】


第十七条の規定にかかわらず、他人の名誉又は信用を毀損(きそん)する不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、被害者の常居所地法(被害者が法人その他の社団又は財団である場合にあっては、その主たる事業所の所在地の法)による。


1. 被害者の常居所地法の一律適用


名誉や信用は、その人が社会生活を営んでいる基盤において形成されるものです。したがって、第17条のような「結果発生地(書き込みが見られた場所)」に頼ると、世界中の法律が適用されるリスク(モザイク現象)が生じます。これを避けるため、一律に「被害者の常居所地法」(法人の場合は主たる事業所所在地法)を適用します。


【具体例:SNSでの誹謗中傷】


アメリカに住んでいる日本人インフルエンサーEさんが、日本国内のサーバーにある掲示板で、フランス在住の人物から誹謗中傷を受けたとします。 この場合、Eさんの名誉が最も毀損されるのは、日本人インフルエンサーEさんが生活基盤を置いているアメリカであるため、準拠法はアメリカ法(常居所地法)となります。



第20条(明らにより密接な関係がある地がある場合の例外)



第17条から第19条までのルールを機械的に適用すると、実態に合わない場合があります。第20条は、より適切な法律へ「逃げ道」を作るための、国際私法の柔軟性を象徴する規定です。


【条文】


前三条の規定にかかわらず、不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、不法行為の当時において当事者が法を同じくする地に常居所を有していたこと、当事者間の契約に基づく義務に違反して不法行為が行われたことその他の事情に照らして、明らかに前三条の規定により適用すべき法の属する地よりも密接な関係がある他の地があるときは、当該他の地の法による。


1. 「明らかにより密接な関係」の判断


法律は、原則(17〜19条)よりも「明らかに関係が深い地」がある場合、そちらを優先します。条文では、特に重要な2つの考慮要素を明示しています。


  • 共通の常居所地: 加害者と被害者が、たまたま外国にいただけで、普段は同じ国に住んでいる場合。


  • 当事者間の契約に関連する不法行為: もともと契約関係にある当事者間で、その契約の履行に関連して不法行為が起きた場合。


【具体例:海外出張中の事故】


ともに日本に住み、日本企業に勤める同僚のFさんとGさんが、イギリス出張中にFさんの運転ミスでGさんが怪我をしました。


  • 第17条(原則)によれば、結果発生地であるイギリス法が適用されます。


  • しかし、第20条を適用すれば、両者が日本に常居所を持っており、同じ会社という背景があるため、日本法が「より密接な関係がある地の法」として優先されます。


【具体例:契約に付随する不法行為】


日本企業H社とアメリカ企業I社が、日本法を準拠法とするコンサルティング契約を結んでいました。その業務の過程で、I社の社員がH社の営業秘密を不正に持ち出した(不法行為)とします。 たとえ持ち出しが行われたのがアメリカ(加害行為地・結果発生地)であっても、もともとの契約が日本法に基づいているため、第20条により日本法が適用される可能性が高くなります。



第21条(当事者による準拠法の変更)



不法行為発生後の「和解」を支える自由


不法行為は、契約とは異なり、加害者と被害者が予期せず出会うことで発生します。しかし、事後的に解決を図る段階では、双方が「馴染みのある法律」で話し合いたいと願うのは自然なことです。


【条文】


不法行為の当事者は、不法行為の後において、不法行為によって生ずる債権の成立及び効力について適用すべき法を変更することができる。ただし、第三者の権利を害することとなるときは、その変更をその第三者に対抗することができない。


1. 「事後的」な準拠法選択の自由


この規定は、不法行為が発生した「後」であれば、当事者の合意によって適用される法律を自由に変更できることを認めています。これは「当事者自治の原則」の不法行為分野への拡張です。第21条による準拠法の変更は、裁判が始まった後であっても、弁論終結時までであれば可能です。


  • なぜ「後」なのか: 不法行為が発生する「前」に、あらかじめ将来の不法行為の法律を決めておくことは、強者(企業など)が弱者(消費者など)に対して自分たちに有利な法を押し付ける危険があるため、認められていません。しかし、トラブルが起きた後であれば、具体的な損害を見据えた上で、双方が納得して法を選べるため、これを尊重するのです。


2. 第三者保護の但書


条文の後半には「ただし、第三者の権利を害することとなるときは、その変更をその第三者に対抗することができない」という重要な制約があります。当事者二人が自分たちの都合で法律を差し替えたことで、その争いに利害関係を持つ外部の人(債権差し押さえ人や保険会社など)が不利益を被ることを防ぐためです。


【具体例1:フランスでの交通事故】


日本に住む日本人AさんとBさんが、フランス旅行中にレンタカーで接触事故を起こしました。


  • 原則(第17条): 結果発生地である「フランス法」が適用されます。


  • 第21条の活用: 帰国後、治療費の交渉をする際、フランス語の文献を調べるのは大変です。そこで二人は「日本法で解決しよう」と合意しました。


  • 効果: これにより、過失割合や慰謝料の算定基準はすべて使い慣れた日本法に従うことになります。


  • 第三者の壁: もしAさんがフランスの保険会社と契約しており、その契約が「フランス法に基づく賠償」を前提としていた場合、勝手に日本法に変えたことを保険会社に認めさせることはできない可能性があります(第三者への対抗制限)。



第22条(不法行為についての公序による制限)



第22条は、日本の裁判所が外国法を適用する際、日本法の基本的な考え方(公序良俗)から逸脱しすぎないようにするための「安全装置」です。


【条文】第1項


不法行為について外国法によるべき場合において、当該外国法を適用すべき事実が日本法によれば不法とならないときは、当該外国法に基づく損害賠償その他の処分の請求は、することができない。


【条文】第2項

 

不法行為について外国法によるべき場合において、当該外国法を適用すべき事実が当該外国法及び日本法により不法となるときであっても、被害者は、日本法により認められる損害賠償その他の処分でなければ請求することができない。


1. 第1項:二重不法行為の要件


この規定は、たとえ外国法で「それは不法行為だ」とされていても、その行為を日本法に照らした時に「不法ではない(合法である)」のであれば、日本の裁判所は損害賠償を認めない、というものです。


  • 存在意義: 日本で適法とされている行為(正当な競争行為や表現の自由の範囲内の行為など)を行っている人に対し、外国法を無理やり適用して責任を負わせることは、日本の法秩序に反すると考えられています。


2. 第2項:救済内容の「日本法による天井」


外国法でも日本法でも「不法」とされる場合であっても、認められる賠償額や内容は、「日本法で認められる範囲」に限られます。


【重要:懲罰的損害賠償への対応】


例えば、アメリカの一部の州では、実際の損害を遥かに超える「懲罰的損害賠償(Punitive Damages)」が認められることがあります。しかし、日本法は「実際に生じた損害を補填する」という考え方を基本としています。


  • 結論: アメリカ法を準拠法として数億円の賠償判決が出るようなケースでも、日本の裁判所は第22条第2項に基づき、日本法で認められる「実損額(+慰謝料)」の範囲まで金額を削ることになります。


【具体例2:比較広告を巡る紛争】


C国では「他社製品との比較広告」が厳しく禁じられており、多額の賠償金が課されるとします。日本企業がC国内で比較広告を出しました。


  • C国法によれば不法行為ですが、その内容が日本法(景品表示法等)の範囲内であれば、第22条第1項により、日本の裁判所は賠償請求を棄却します。


  • もし日本法でも違法なレベルの誹謗中傷であれば、第22条第2項により、賠償額は「日本法における名誉毀損の相場」にまで引き下げられます。


通則法には第42条という「一般条項としての公序」が存在します。しかし、不法行為については第22条という「具体的な公序」がわざわざ置かれています。これは、不法行為が個人の意思を離れて発生するものである以上、国家がより強くその内容をコントロールすべきであるという、強力な政策的意思の表れです。



第23条(債権の譲渡)



国際的なビジネス・ファイナンスにおいて最も争点になりやすい、債権譲渡のルールです。


【条文】


債権の譲渡の債務者その他の第三者に対する効力は、譲渡に係る債権について適用すべき法による。


1. 債権の「発生法」がすべてを支配する


債権(お金を払ってもらう権利など)が誰かに譲り渡されたとき、その譲渡を「債務者」や「二重譲渡を受けた第三者」に対して主張できるかどうか(対抗要件)は、「その債権自体に適用されている法律」に従います。「第三者」には、債権の二重譲受人だけでなく、債権を差し押さえた人(差押債権者)も含まれます。


  • なぜこのルールなのか: 債務者の立場から考えてみましょう。自分が日本法に基づいてお金を借りたのに、債権者が勝手に海外の会社に権利を売り、その結果「アメリカ法に従って通知したから有効だ」と言われても困惑してしまいます。債務者が最初に合意した法律、あるいは債権が発生した瞬間の法律が最後まで適用されるのが、最も予測可能性が高いのです。


2. 譲渡契約自体との区別


「譲渡契約そのもの(譲渡人と譲受人の間の契約)」と「対外的な効力」の区別が必要です。


  • 譲渡人と譲受人が「この譲渡についてはイギリス法にしよう」と決めるのは第7条(当事者自治)に基づき自由です。


    しかし、その譲渡を「債務者(お金を払う側)」や「第三者」に認めさせるためのルール(通知が必要か、確定日付が必要かなど)は、第23条により、元の債権の法律に強制的に引き戻されます。


【具体例3:多国籍な売掛金譲渡】


日本企業Dが、タイ企業Eに対して持っている売掛金(準拠法は日本法)を、シンガポールの投資銀行Fに譲渡しました。


  • この譲渡を債務者であるタイ企業Eに認めさせるためには、シンガポール法やタイ法ではなく、日本法が定める対抗要件(債務者への通知または承諾)を満たさなければなりません。


  • もし日本法の手続を怠れば、たとえシンガポール法で有効な譲渡であっても、E社に対して「私に払え」と主張することはできません。



第5節 親族



国境を越えた愛が形になる「国際結婚」。しかし、いざ結婚するとなると、日本法だけでは解決できない多くの疑問が浮かび上がります。



第24条(婚姻の成立と方式)



結婚が法的に有効であるためには、「実質的要件(中身)」と「形式的要件(手続き)」の両方を満たす必要があります。


【条文】


  1. 婚姻の成立は、各当事者につき、その本国法による。


  2.  婚姻の方式は、婚姻挙行地の法による。

     

  3. 前項の規定にかかわらず、当事者の一方の本国法に適合する方式は、有効とする。ただし、日本において婚姻が挙行された場合において、当事者の一方が日本人であるときは、この限りでない。


1. 婚姻の成立(第1項):配分的適用


第1項は、結婚ができるための資格(婚姻適齢、独身であること、近親婚でないことなど)について定めています。これは「各当事者につき、その本国法による」とされており、これを配分的適用と呼びます。


  • 解説: 二人が結婚するためには、夫になる人は「夫の本国法」の要件を、妻になる人は「妻の本国法」の要件を、それぞれ個別に満たしていなければなりません。


【具体例:婚姻適齢の違い】


日本人の男性(18歳)と、本国法で16歳から結婚が認められている国の女性が日本で結婚しようとする場合


  • 男性は日本法(本国法)の18歳要件を満たしている必要があります。


  • 女性は彼女の本国法の16歳要件を満たしていれば、日本法で18歳に達していなくても(通則法第24条第1項により)結婚の成立要件を満たすことになります。


2. 婚姻の方式(第2項・第3項):挙行地法と本国法


「どうやって結婚式や届け出をするか」という形式については、原則として「婚姻挙行地(結婚式や届け出を行う場所)の法」によります(第2項)。


しかし、利便性を考え、「どちらか一方の本国法」に従った方式も有効とされます(第3項本文)。ただし、これには重大な例外があります。


【日本における日本人を含む結婚の例外】(第3項但書)


  •  日本で婚姻を挙行する場合、当事者のどちらか一方が日本人であれば、必ず日本法が定める方式(市区町村役場への届出)を行わなければなりません。駐日外国大使館での挙式だけでは、日本法上は有効な婚姻とは認められません。



第25条(婚姻の効力)



結婚した後の夫婦間の権利義務(氏、同居・協力・扶助義務、婚姻費用の分担など)については、段階的な準拠法の決定ルールが設けられています。


【条文】


婚姻の効力は、夫婦の本国法が同一であるときはその法により、その法がない場合において夫婦の常居所地法が同一であるときはその法により、そのいずれの法もないときは夫婦に最も密接な関係がある地の法による。


1. 三段階の連結点


第25条は、夫婦の生活ルールをどこの国の法に委ねるかを、以下の優先順位で決定します。


  1. 共通本国法: 夫婦の国籍が同じなら、その国の法。


  2. 共通常居所地法: 国籍が違っても、二人で同じ国(例えば日本)に住んでいるなら、その住んでいる場所の法。


  3. 密接関係地法: 上記のどちらもない場合は、その夫婦に最も縁が深い地の法。


【具体例:夫婦別姓か同姓か】


フランス人男性と日本人女性が結婚し、日本で生活している場合:


  1. 国籍が違うため「共通本国法」はありません。


  2. 二人とも日本に住んでいるため、「共通常居所地法」である日本法が適用されます。


  3. 結果: 日本法が適用されるため、夫婦の氏(苗字)に関する問題も日本法のルールに照らして判断されることになります。



第26条(夫婦財産制)



夫婦が持っている財産をどう管理し、離婚や死亡の際にどう分けるか(夫婦財産制)についての規定です。ここは当事者の「選択」が認められている非常に重要な部分です。


【条文】



(第1項)

前条の規定は、夫婦財産制について準用する。 


(第2項)

前項の規定にかかわらず、夫婦が、その署名した書面で日付を記載したものにより、次に掲げる法のうちいずれの法によるべきかを定めたときは、夫婦財産制は、その法による。この場合において、その定めは、将来に向かってのみその効力を生ずる。


(第2項第1号) 

  • 夫婦の一方が国籍を有する国の法 


(第2項第2号)

  • 夫婦の一方の常居所地法


 (第2項第3号)

  • 不動産に関する夫婦財産制については、その不動産の所在地法 


(第3項)

前二項の規定により外国法を適用すべき夫婦財産制は、日本においてされた法律行為及び日本に在る財産については、善意の第三者に対抗することができない。この場合において、その第三者との間の関係については、夫婦財産制は、日本法による。


(第4項)

 前項の規定にかかわらず、第一項又は第二項の規定により適用すべき外国法に基づいてされた夫婦財産契約は、日本においてこれを登記したときは、第三者に対抗することができる。


1. 原則(第1項):婚姻の効力と同じルール


特に指定がない限り、第25条と同じ「共通本国法 → 共通常居所地法 → 密接関係地法」の順で決まります。


2. 当事者による選択(第2項):準拠法選択


第26条第2項は、夫婦が「書面(署名・日付入り)」で合意すれば、以下の法律の中から準拠法を選べるとしています。


  • どちらかの国籍がある国の法


  • どちらかが住んでいる(常居所)国の法


  • 不動産については、その不動産がある場所の法


これは、夫婦の財産関係を予測可能なものにするための極めて実務的な規定です。なお、この選択は「将来に向かってのみ」効力を持ちます。


3. 第三者保護と登記(第3項・第4項):取引の安全


 たとえ夫婦間で「フランス法に従う」と決めていても、日本でその夫婦の一方と取引をした第三者(例えば、夫が所有する日本の土地を妻の同意なく買った人)は、外国の夫婦財産制(例えばフランス法の共同財産制)を知り得ません。


  • 善意の第三者への対抗不能: 日本での取引や日本にある財産については、外国法を「知らない(善意)」第三者には、その外国法の内容を押し付けられません。その場合、第三者との関係では日本法が適用されます(第3項)。


  • 登記による対抗: ただし、外国法に基づいた夫婦財産契約を「登記」していれば、第三者にも「知っていたはずだ」と言えるようになり、対抗可能となります(第4項)。


【具体例:海外の「共同財産制」と日本の銀行】


アメリカ(共同財産制の州)の夫婦が日本で生活しています。夫が日本の銀行から、夫婦共同の預金を担保にお金を借りようとしました。


  • 原則として、共通常居所地である日本法(別産制)が適用されれば、夫は自分の名義の預金を自由に処分できます。


  • もし妻が「アメリカ法では共同財産だから私の同意がない貸付は無効だ」と主張しても、銀行がその事実(外国法の適用)を知らなければ、第26条第3項により銀行は保護されます。



第27条(離婚)



国際離婚において、不倫の慰謝料や財産分与、そもそも離婚が認められるかどうかを判断する基準となるのが第27条です。


【条文】


第二十五条の規定は、離婚について準用する。ただし、夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは、離婚は、日本法による。


1. 原則:婚姻の効力と同様の三段階ルール


第27条本文は、第25条(婚姻の効力)の規定を準用しています。これにより、離婚の準拠法は以下の順序で決定されます。


  1. 共通本国法: 夫婦の国籍が同一なら、その国の法。


  2. 共通常居所地法: 国籍が違っても、夫婦が同じ国に住んでいるなら、その地の法。


  3. 密接関係地法: 上記のいずれもない場合は、夫婦に最も密接な関係がある地の法。


2. 重要:日本法を優先する「但書」


「夫婦の一方が日本に住んでいる日本人」であるときは、日本法が適用されます。これは、日本に生活基盤がある日本人の離婚を、外国法(例えば離婚を一切認めない国の法など)によって妨げられないようにするための保護規定です。単なる観光旅行ではなく、客観的に「そこで生活している」と言える実態が必要です。


【具体例:日本に住む日本人と外国人の夫婦】


日本で暮らす日本人女性Aさんと、イタリア人男性Bさんの夫婦が離婚を考えているとします。


  • 本来なら共通本国法はなく、共通常居所地である日本法が適用されますが、仮に2人がイタリアで暮らしていたとしても、Aさんが日本に一時帰国して「日本に常居所がある」と認められる状態であれば、この但書により日本法が適用されます。



第28条(嫡出である子の親子関係の成立)



「嫡出(ちゃくしゅつ)」とは、法律上の婚姻関係にある夫婦の間に生まれることを指します。

【条文】


  1. 夫婦の一方の本国法で子の出生の当時におけるものにより子が嫡出となるべきときは、その子は、嫡出である子とする。 


  2. 夫が子の出生前に死亡したときは、その死亡の当時における夫の本国法を前項の夫の本国法とみなす。


1. 嫡出性を最大限に認める「選択的連結」


第28条第1項は、子供が法律上の嫡出子としての身分を安定して得られるよう、「夫の本国法」または「妻の本国法」のいずれか一方で嫡出と認められれば、その子は嫡出子となります。これを「選択的連結」と呼び、子供の利益を保護する考え方が反映されています。


2. 夫が死亡している場合の特例(第2項)


子供が生まれる前に父親(夫)が亡くなっている場合でも、「死亡した時点での夫の本国法」を基準として、嫡出性を判断します。


【具体例:国籍によって嫡出の基準が異なる場合】


日本人女性Cさんと、イギリス人男性Dさんの間に子供Eさんが生まれました。


  • 日本法(母の本国法)で嫡出と認められるか、あるいはイギリス法(父の本国法)で嫡出と認められれば、Eさんは日本において嫡出子として扱われます。どちらか一方で「YES」が出れば良いのです。



第29条(嫡出でない子の親子関係の成立)



法律上の結婚をしていない男女の間に生まれた子(嫡出でない子)の親子関係、特に「認知」についての規定です。


【条文】


  1. 嫡出でない子の親子関係の成立は、父との間の親子関係については子の出生の当時における父の本国法により、母との間の親子関係についてはその当時における母の本国法による。この場合において、子の認知による親子関係の成立については、認知の当時における子の本国法によればその子又は第三者の承諾又は同意があることが認知の要件であるときは、その要件をも備えなければならない。 


  2. 子の認知は、前項前段の規定により適用すべき法によるほか、認知の当時における認知する者又は子の本国法による。この場合において、認知する者の本国法によるときは、同項後段の規定を準用する。


  3. 父が子の出生前に死亡したときは、その死亡の当時における父の本国法を第一項の父の本国法とみなす。前項に規定する者が認知前に死亡したときは、その死亡の当時におけるその者の本国法を同項のその者の本国法とみなす。


1. 親子関係成立の原則(第1項前段)


父子関係は「出生時の父の本国法」、母子関係は「出生時の母の本国法」によります。これは、親子関係の発生をそれぞれの親の国の法律に委ねる「配分的適用」です。


2. 子供の保護:承諾・同意の要件(第1項後段)


認知をする際、「子供の本国法」が子供自身や第三者(母親など)の承諾を必要としている場合は、その要件も満たさなければなりません。これは、勝手な認知によって子供が不利益を被らないようにするためのブレーキの役割を果たします。


3. 認知の準拠法の選択肢(第2項)


第2項は非常に重要です。認知をより成立しやすくするため、以下のいずれかの法律に適合すれば、認知は有効となります。


  1. 第1項前段の法(父または母の本国法)


  2. 認知の当時の「認知する者(親)」の本国法


  3. 認知の当時の「子」の本国法


4. 死亡時の特例(第3項)


第28条と同様に、親が死亡している場合は「死亡時の本国法」を基準とします。


【具体例:フィリピン人の母と日本人の父】


結婚していない日本人男性Fさんとフィリピン人女性Gさんの間に子供Hさんが生まれました。


  • FさんがHさんを認知する場合、日本法(Fさんの本国法)で認知が有効であれば成立します。


  • ただし、Hさんの本国法(フィリピン法)が「認知には母親の同意が必要」と定めている場合、日本法に基づく認知であっても、フィリピン法上の同意要件を満たす必要があります(第29条第1項後段)。


第30条(準正)



第30条「準正(じゅんせい)」です。準正とは、婚姻外で生まれた子(非嫡出子)が、その後に父母が婚姻することなどによって、嫡出子(法律上の夫婦の子)としての身分を取得する制度を指します。


【条文】


  1. 子は、準正の要件である事実が完成した当時における父若しくは母又は子の本国法により準正が成立するときは、嫡出子の身分を取得する。


  2.  前項に規定する者が準正の要件である事実の完成前に死亡したときは、その死亡の当時におけるその者の本国法を同項のその者の本国法とみなす。


1. 準正を最大限に促進する「選択的連結」


第30条第1項は、子供の身分を安定させるため、「選択的連結」いずれか一つの法律で準正が認められれば、その子は日本において嫡出子としての身分を取得します。


  • 父の本国法


  • 母の本国法


  • 子の本国法


これは、国際私法における「子供の利益(Favor Liberi)」という基本理念を具現化したものです。どこの国の法律であっても、準正を認める法律が一つでもあれば、子供に嫡出子とい

う安定した地位を与えようとする配慮です。


2. 事実の「完成」と時間的要素


準正が成立するためには、多くの場合「父母の婚姻」と「父による認知」の双方が必要です。第1項にいう「事実が完成した当時」とは、これら全ての法的要件が揃った瞬間を指します。


3. 死亡時の特例(第2項)


準正の事実が完成する前に、父、母、または子のいずれかが亡くなっている場合でも、準正の道を閉ざさないための規定です。この場合、「死亡した時点でのその者の本国法」を基準として準正の成否を判断します。


【具体例:日本人の父とフィリピン人の母】


日本人の男性Aさんと、フィリピン人の女性Bさんの間に、婚姻前に子供Cさんが生まれました。その後、AさんとBさんが正式に結婚しました。


  • この場合、日本の民法(父の本国法)でも、フィリピンの家族法(母の本国法)でも、あるいは子供Cさんの本国法でも、いずれか一つで「婚姻によって子が準正する」という規定があれば、Cさんは日本において嫡出子となります。


  • もし、父母が結婚する前に父Aさんが亡くなっていたとしても、生前に認知をしていた場合などは、Aさんの死亡時の本国法(日本法)に照らして準正の成否が検討されます。



第31条(養子縁組)



国境を越えた養子縁組は、子供の保護という観点から非常に厳格なルールが適用されます。


【条文】


  1. 養子縁組は、縁組の当時における養親となるべき者の本国法による。 この場合において、養子となるべき者の本国法によればその者若しくは第三者の承諾若しくは同意又は公的機関の許可その他の処分があることが養子縁組の成立の要件であるときは、その要件をも備えなければならない。


  2. 養子とその実方の血族との親族関係の終了及び離縁は、前項前段の規定により適用すべき法による。


1. 原則:養親の本国法(第1項前段)


養子縁組が成立するかどうか、例えば「養親は何歳以上でなければならないか」「独身者でも養親になれるか」といった実質的な成立要件は、原則として「養親となるべき者の本国法」によって決まります。


2. 子を保護するための「累積的適用」(第1項後段)


ここが国際養子縁組の核心です。養親側の法律でOKであっても、「養子となるべき子の本国法」が子供を守るために定めている以下の要件は、必ず満たさなければなりません。


  • 子の承諾: 子供自身が縁組を望んでいるか。


  • 第三者の承諾・同意: 実親や後見人が同意しているか。


  • 公的機関の許可・処分: 裁判所や政府機関の許可が必要か。


これを「累積的適用」と呼び、養親と養子、双方の国の「子供を守るためのフィルター」を両方通らなければならないという、いわば二重の鍵(ダブルキー)の構造になっています。


3. 親族関係の終了と離縁(第2項)


第2項は、縁組の「効果」と「解消」について定めています。


  • 実方との関係終了: 養子縁組によって、実の親との法的な縁が切れるかどうか(日本の特別養子縁組のような強い効果があるか)は、「養親の本国法」によって決まります。


  • 離縁: 養子関係を解消する場合のルールも、同様に「養親の本国法」によります。


【具体例:日本人の夫婦が海外の子供を養子にする場合】


日本に住む日本人夫婦が、海外(例えばベトナム)の孤児院にいる子供Dさんを養子に迎えようとしています。


  • 成立要件(養親側): まず、日本の民法が定める養親の要件(年齢など)を満たす必要があります。


  • 成立要件(養子側): さらに、ベトナム法(子の本国法)が「ベトナム政府の許可」や「実父母の同意」を必要としているなら、そのベトナム法上の手続きも全て完了させなければ、日本で有効な養子縁組は成立しません。


  • 効果: この縁組によって実親との法的な関係が消滅するかどうかは、養親の本国法である日本法(普通養子か特別養子か)によって判断されます。



第32条(親子間の法律関係)



親子が成立した後の、具体的な権利義務(親権、監護権、居所指定、子の財産管理など)を司るのが第32条です。


【条文】


親子間の法律関係は、子の本国法が父又は母の本国法(父母の一方が死亡し、又は知れない場合にあっては、他の一方の本国法)と同一である場合には子の本国法により、その他の場合には子の常居所地法による。


1. 段階的な準拠法の決定プロセス


第32条は、親子間の日常的なルールをどの国の法律に委ねるかを、以下の二段階で決定します。


第1段階:国籍の一致(本国法)


「子の本国法(国籍)」が「父または母の本国法(国籍)」のいずれかと一致している場合、その共通する「子の本国法」が適用されます。 家族の中に共通の法的背景があるなら、それを優先しようという考え方です。なお、親の一方が亡くなっている場合は、生存している親の国籍と比較します。


第2段階:生活の実態(常居所地法)


子供の国籍がどちらの親とも一致しない場合(多国籍家族でよく見られるケースです)、一律に「子の常居所地法」子供が実際に生活の拠点を置いている場所の法)が適用されます。


2. 「常居所地法」採用の意義


かつての法律(旧法例)では、常に「父の本国法」が優先されるなど、不平等な側面がありました。現在の通則法第32条は、国籍が一致しない場合には、「子供が実際に育っている環境の法律」を適用することで、子供の福祉を最も適切に守ろうとしています。


【具体例:複雑な多国籍家族のケース】


パターンA(日本在住): ドイツ人の父、日本人の母、日本国籍のみを持つ子の家族。


  • 子の本国法(日本)と母の本国法(日本)が一致するため、準拠法は日本法です。


パターンB(日本在住): アメリカ人の父、韓国人の母、アメリカ国籍のみを持つ子の家族。


  • 子の本国法(アメリカ)と父の本国法(アメリカ)が一致するため、準拠法はアメリカ法となります。


パターンC(日本在住): イギリス人の父、中国人の母、日本で生まれ育ったがブラジル国籍(父方の祖父の関係など)のみを持つ子の家族。


  • 子の本国法(ブラジル)は、父(イギリス)とも母(中国)とも一致しません。


  • この場合、第32条後半により、子供が実際に暮らしている「日本法(常居所地法)」が適用されます。

※第32条の「親子間の法律関係」には、実は「養育費(扶養義務)」は含まれません。 通則法第43条第1項には、「夫婦、親子その他の親族関係から生ずる扶養の義務については、適用しない」と明記されています。 養育費の請求については、別途「扶養義務の準拠法に関する法律」という特別な法律に従う必要があるため、注意が必要です。


※多重国籍者の本国法(第38条)


第30条から第32条で「本国法」を判断する際、当事者が二つ以上の国籍を持っている場合は、後述する第38条のルールに従います。


  • その中に日本国籍が含まれていれば、日本法が本国法となります。


  • 日本国籍がない場合は、その人が常居所を持つ国の法、あるいは最も密接な関係がある国の法を選びます。



第33条(その他の親族関係等)



通則法は、第24条から第32条にかけて、婚姻、離婚、親子、準正、養子縁組といった主要な親族関係を個別に規定してきました。第33条は、これらの中に含まれない「すべての親族関係」を網羅するための包括的な規定です。


【条文】


第二十四条から前条までに規定するもののほか、親族関係及びこれによって生ずる権利義務は、当事者の本国法によって定める。


1. 「包括的規定」としての役割


第33条は、特定の条文が用意されていない親族関係について、広く「当事者の本国法」を準拠法と定めています。これにより、法的な空白が生じないようになっています。


  • 「親族関係」の範囲: 兄弟姉妹、祖父母と孫、叔父叔母と甥姪など、これまでの条文で直接言及されなかったすべての血縁・姻族関係が含まれます。


  • 「権利義務」の具体例: 親族間の扶助義務や、親族であることを理由とする氏(名字)の称用、あるいは特定の親族としての身分から生じる法的特権などが対象となります。


【具体例:兄弟姉妹間の権利義務】


日本で暮らすブラジル人の兄弟がいたとします。兄が弟に対して、ブラジル法上の親族としての特別な権利を主張する場合、その成否は、通則法第33条により、二人の共通の本国法であるブラジル法によって判断されます。


扶養義務の除外(第43条)


第33条で「親族関係から生ずる権利義務」を定めていますが、ここでも「扶養の義務(仕送りや養育費など)」は除外されます。扶養については、別の法律(扶養義務の準拠法に関する法律)が適用されるため、混同しないように細心の注意を払う必要があります。



第34条(親族関係についての法理行為の方式)



親族関係を発生させたり変更させたりする法律行為(認知、養子縁組の合意、離縁など)について、どのような「形(方式)」を整えれば有効になるかを定めています。


【条文】


  1. 第二十五条から前条までに規定する親族関係についての法律行為の方式は、当該法律行為の成立について適用すべき法による。


  2. 前項の規定にかかわらず、行為地法に適合する方式は、有効とする。


1. 原則:実質的準拠法に従う(第1項)


親族関係の法律行為の「方式」は、原則として、その行為の「中身(成立)」を支配する法律に従います。


  • 解説: 例えば、認知(第29条)の方式であれば、認知の成立を定める法律(父の本国法など)が定める手続きに従えば有効です。


2. 例外:行為地法による有効性(第2項)


ここが実務上極めて重要です。第1項の原則に従うのが難しい場合でも、「その行為が行われた場所の法律(行為地法)」が定める方式に従っていれば、日本法上は有効とみなされます。


  • なぜこの規定があるのか: 外国にいる当事者が、自分の本国法の手続き(例えば特定の役所への出頭)を正確に行うのは困難な場合があります。そこで、今いる場所(行為地)のルールに従ったのであれば、それを有効として認めることで、身分関係の安定を図っています。


【具体例:タイでの認知届】


日本人の男性が、タイにおいてタイ人の子供を「認知」しようとします。


  • 第29条(認知)の実質的な準拠法は日本法ですが、方式については第34条第2項により、タイの現地法(行為地法)が定める方式(現地の役所への届出など)で行えば、日本においても有効な認知の方式として認められます。


第34条は「第25条から前条まで(第33条)」に規定する親族関係に適用されます。ここで注意が必要なのは、「婚姻の方式」は含まれていないという点です。婚姻の方式については、専用の規定である第24条第2項・第3項が優先して適用されます。第34条は、それ以外の認知、養子縁組、離縁などの方式に関しての条文です。


. 方式の簡素化(第34条)


準正や養子縁組という「中身」は第30条・第31条で決まりますが、届け出などの「やり方(方式)」については、第34条により、その手続きを行った場所の法律(行為地法)に従うことも認められており、手続きの便宜が図られています。



第35条(後見等)



認知症や知的障害などにより判断能力が不十分な人を守る「後見」等の制度を、国際的な場面でどのように適用するかを定めた規定です。


【条文】



(第1項)

後見、保佐又は補助(以下「後見等」と総称する。)は、被後見人、被保佐人又は被補助人(次項において「被後見人等」と総称する。)の本国法による。



(第2項)

 前項の規定にかかわらず、外国人が被後見人等である場合であって、次に掲げるときは、後見人、保佐人又は補助人の選任の審判その他の後見等に関する審判については、日本法による。



(第2項第1号)

 当該外国人の本国法によればその者について後見等が開始する原因がある場合であって、日本における後見等の事務を行う者がないとき。



(第2項第2号)

 日本において当該外国人について後見開始の審判等があったとき。


1. 原則:本国法主義(第1項)


後見等が開始されるかどうか、どのような権限が与えられるかは、原則として「本人(被後見人等)の本国法」によります。本人の身分に深く関わることであるため、国籍がある国の法律を尊重します。


2. 緊急事態と日本法の介入(第2項)


しかし、外国法にこだわりすぎると、日本に住んでいる外国人の保護が遅れる危険があります。そこで、以下の2つのケースでは、日本の裁判所が日本法を適用して、後見人を選んだりすることができます。


  • 第1号(保護の欠如): 本人の国の法律でも後見が必要な状態なのに、日本で実際に世話をしてくれる人が誰もいない場合。


  • 第2号(既に審判がある場合): すでに日本で「後見開始の審判(通則法第5条)」がなされている場合。


【具体例:日本で独り暮らしの高齢外国人】


日本に長く住んでいるフランス人男性が認知症になりました。


  • 原則はフランス法(本国法)ですが、フランスにいる親族と連絡が取れず、日本で彼の財産を管理する人が誰もいない場合、第35条第2項第1号に基づき、日本の裁判所は日本法を適用して、日本の弁護士などを後見人に選任することができます。


第35条第1項で「本国法(例えばイギリス法)」が選ばれた際、もしイギリスの法律が「日本に住んでいるなら日本法に従いなさい」と言っている場合、通則法第41条(反致)により、結果として日本法が適用されることになります。


第5条と第35条の使い分け


第5条は、日本の裁判所が「日本法により」審判を行う手続的な入り口です。一方で、選任された後見人の権限や義務といった、審判そのものの「内容」については、第35条(後見等)が適用され、原則として被後見人の「本国法」が基準となります。 この「手続は日本法、中身は本国法」という二層構造を理解することが重要です。



第6節 相続


第36条(相続)



相続は、個人の財産関係を包括的に承継させる制度です。国によって相続のルールは大きく異なりますが、日本の通則法は「相続統一主義」という立場をとっています。


【条文】


第三十六条 相続は、被相続人の本国法による。


1. 相続統一主義の採用


第36条は、相続に関するすべての法律関係(誰が相続人か、相続分はどうなるか、寄与分や遺留分はあるか等)について、一律に「被相続人(亡くなった人)の本国法(国籍がある国の法)」を適用すると定めています。


  • 「相続統一主義」とは: 不動産(土地・建物)であっても動産(預金・現金・宝石)であっても、財産の種類や所在場所に関わらず、亡くなった人の国籍がある国の法律を一括して適用する考え方です。これに対し、アメリカやイギリスなどは、不動産については「その土地がある場所の法」、動産については「亡くなった人の住所地法」というようにバラバラに適用する「相続分割主義」をとっていますが、日本は混乱を避けるために統一主義を採用しています。


【具体例1:日本に住むフランス人が亡くなった場合】


日本で長く暮らし、東京に自宅マンション、日本の銀行に多額の預金を持っていたフランス人男性Aさんが亡くなったとします。


  • この場合、第36条により、準拠法は**フランス法(本国法)**となります。


  • たとえ財産が日本にあっても、誰が相続人になり、誰がどれだけの割合で遺産を受け取るかは、日本法ではなくフランス法によって決まるのです。



第37条(遺言)



亡くなった人の最終的な意思である「遺言」。その内容が有効かどうかをいつの時点の法律で判断するかは、非常にデリケートな問題です。


【条文】


  1. 遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による。


  2.  遺言の取消しは、その当時における遺言者の本国法による。


1. 成立・効力の準拠法(第1項)


遺言が有効に成立したか、どのような法的効力を持つかは、「遺言を書いた当時(成立の当時)」の遺言者の本国法によります。


  • なぜ「成立時」なのか: 遺言を書いた後に遺言者が国籍を変えた場合、亡くなった時点の法律(第36条の原則)で判断すると、書いた当時には有効だった遺言が後から無効になってしまう恐れがあります。これでは遺言者の意思(期待)が守られません。そのため、第37条は「書いた瞬間の法律」でその有効性を固定するのです。


2. 取消しの準拠法(第2項)


一度書いた遺言を取り消したり、書き直したりする場合、その取消し行為が有効かどうかは、「取消しをした当時」の遺言者の本国法によります。


【具体例2:国籍を変えた場合の遺言】


Bさんは、アメリカ国籍だった20歳の時に、アメリカ法に従って遺言書を書きました。その後、Bさんは日本に帰化して日本国籍を取得し、その数年後に亡くなりました。


  • この遺言が有効かどうか(成立・効力)は、第37条第1項により、遺言を書いた当時の本国法であるアメリカ法で判断されます。


  • その後、日本国籍になってから「やっぱりあの遺言はなしにする」と取り消す場合、その取消しの有効性は、第37条第2項により、取消し当時の本国法である日本法で判断されます。


※第37条は遺言の「中身(成立・効力)」の話です。遺言の「形(方式)」、つまり署名が必要か、証人が必要かといったルールについては、通則法ではなく「遺言の方式の準拠法に関する法律」という別の法律が優先して適用されます(第43条第2項)。



第7節 補則



第38条(本国法)



これまでの条文で何度も登場した「本国法(国籍がある国の法)」。しかし、二重国籍の人や無国籍の人の場合、一体どの国の法律が「本国法」になるのでしょうか。第38条は、そのそのようなときの判断基準を定めています。


【条文】


  1. 当事者が二以上の国籍を有する場合には、その国籍を有する国のうちに当事者が常居所を有する国があるときはその国の法を、その国籍を有する国のうちに当事者が常居所を有する国がないときは当事者に最も密接な関係がある国の法を当事者の本国法とする。ただし、その国籍のうちのいずれかが日本の国籍であるときは、日本法を当事者の本国法とする。 


  2. 当事者の本国法によるべき場合において、当事者が国籍を有しないときは、その常居所地法による。ただし、第二十五条(第二十六条第一項及び第二十七条において準用する場合を含む。)及び第三十二条の規定の適用については、この限りでない。


  3.  当事者が地域により法を異にする国の国籍を有する場合には、その国の規則に従い指定される法(そのような規則がない場合にあっては、当事者に最も密接な関係がある地域の法)を当事者の本国法とする。


1. 二重国籍・多重国籍の場合(第1項)


複数の国籍を持つ人の本国法は、以下の優先順位で決まります。


  1. 日本優先の原則(但書): 複数の国籍の中に「日本」が含まれていれば、他の事情を問わず日本法が本国法となります。


  2. 常居所地優先: 日本国籍がない場合、その人が国籍を持っている国のうち、実際に住んでいる(常居所がある)国の法が本国法となります。


  3. 密接関係地: どちらの国にも住んでいない場合は、その人と最も関係が深い(密接関係がある)国の法を本国法とします。


2. 無国籍の場合(第2項)


どこの国の国籍も持っていない人の場合は、国籍の代わりに「常居所地法(普段住んでいる場所の法)」を本国法とみなします。ただし、婚姻の効力(第25条)や親子関係(第32条)など、もともと「常居所地法」を段階的に適用するよう設計されている条文については、混乱を避けるための除外規定があります。


3. 法域が分かれている国の場合(第3項)


アメリカやカナダのように、同じ国の中でも州(地域)によって法律が異なる場合です。この場合は、その国の規則(指定ルール)に従い、規則がなければその人と最も密接な関係がある地域の法を本国法とします。


【具体例:日米二重国籍者の相続】


日本とアメリカの両方の国籍を持つCさんが亡くなりました。


  • 第38条第1項但書により、Cさんに日本国籍がある以上、本国法は日本法となります。したがって、第36条(相続)の適用にあたっても、日本法が準拠法となります。



第39条(常居所地法)



通則法の多くの条文で、連結点(準拠法を選ぶための手がかり)として採用されている「常居所地法」。しかし、本人が世界を転々としていたり、居場所が定まらなかったりする場合、このルールは立ち往生してしまいます。その救済策が第39条です。


【条文】


当事者の常居所地法によるべき場合において、その常居所が知れないときは、その居所地法による。ただし、第二十五条(第二十六条第一項及び第二十七条において準用する場合を含む。)の規定の適用については、この限りでない。


1. 「常居所」から「居所」への段階的降格


通則法において「常居所(じょうきょしょ)」とは、単なる滞在先ではなく、ある程度の期間にわたって継続的に居住し、生活の本拠となっている場所を指します。第39条本文は、この常居所が「知れない(特定できない)」場合に、一段階基準を下げて、現在実際に留まっている場所である「居所地法(きょしょちほう)」を適用すると定めています。


  • 「知れない」の意味: 客観的にどこにも常居所がない場合だけでなく、調査を尽くしても判明しない場合も含まれます。


2. 重要な例外:婚姻の効力等への不適用(但書)


第39条には重要な但書があります。婚姻の効力(第25条)、夫婦財産制(第26条1項)、離婚(第27条)については、この「居所地法への切り替え」は適用されません。


  • 理由: 夫婦関係のような身分法上の問題において、たまたま今いるだけの場所(居所)の法律を適用してしまうと、夫婦関係の安定を著しく害する恐れがあるためです。これらの条文では、常居所がない場合は次の段階である「密接関係地法」などへ移行する仕組みが別途用意されています。


【具体例:住所不定の外国人による不法行為】


日本国内で、特定の常居所を持たずホテルを転々としている外国人が名誉毀損(第19条:原則は常居所地法)を起こしたとします。


  • この場合、第19条により常居所地法を適用しようとしますが、常居所が不明であるため、第39条により、現在彼が滞在している「居所地法(この場合は日本法)」が準拠法として適用されます。


※第39条但書の「法域」


第39条の例外規定が適用される第25条などでは、常居所がない場合にどうするかというルールがその条文内に完結して書かれています(例:夫婦に最も密接な関係がある地の法)。



第40条(人的に法を異にする国又は地の法)



世界には、国籍や住んでいる地域だけでなく、属する宗教(イスラム教、ヒンドゥー教など)や人種によって適用される法律が異なる「人的法」を採用している国が存在します。第40条は、こうした複雑な体系を持つ国の法をどう扱うかを規定しています。


【条文】


  1. 当事者が人的に法を異にする国の国籍を有する場合には、その国の規則に従い指定される法(そのような規則がない場合にあっては、当事者に最も密接な関係がある法)を当事者の本国法とする。


  2.  前項の規定は、当事者の常居所地が人的に法を異にする場合における当事者の常居所地法で第二十五条(第二十六条第一項及び第二十七条において準用する場合を含む。)、第二十六条第二項第二号、第三十二条又は第三十八条第二項の規定により適用されるもの及び夫婦に最も密接な関係がある地が人的に法を異にする場合における夫婦に最も密接な関係がある地の法について準用する。


1. 本国法の指定(第1項)


当事者が「人的に法を異にする国(例:インドなど)」の国籍を持つ場合、その国の「どの法律」を本国法とするかは、まずその国の規則(指定ルール)「最も密接な関係がある法」(例えば、本人が信仰している宗教の法など)を本国法とします。


2. 常居所地法等への準用(第2項)


第2項は、第1項のルールを「常居所地法」や「密接関係地法」を適用する場合にも広げています。夫婦関係や親子関係(第25条、第32条など)において、住んでいる場所が人的に法を分かち合っている場合も、同様の手順で具体的な法律を特定します。


【具体例:インド人の相続】


インド国籍の男性が亡くなり、相続(第36条)が発生しました。インドでは、ヒンドゥー教徒にはヒンドゥー法、イスラム教徒にはイスラム法が適用されます。


  • 通則法第36条により「本国法(インド法)」が選ばれますが、第40条第1項により、インドの規則に従って、彼がヒンドゥー教徒であれば「ヒンドゥー相続法」が具体的な準拠法として特定されます,。


第40条の「最も密接な関係」の認定


人的に法を異にする国において「最も密接な関係がある法」を特定する際、本人の宗教、カースト、民族的出自、あるいは家族が伝統的に従ってきた慣習などが精査されます。これは単なる「場所」の特定よりもはるかに繊細な作業となります。



第41条(反致)


通則法の中で最もドラマチックであり、かつ実務的な解決をもたらすのが第41条「反致」です。これは、日本の法律が選んだ外国法が、「いや、このケースは日本法に従いなさい」と送り返してくる現象(Remission)を認める規定です。


【条文】


当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による。ただし、第二十五条(第二十六条第一項及び第二十七条において準用する場合を含む。)又は第三十二条の規定により当事者の本国法によるべき場合は、この限りでない。


1. 反致の受容:日本法への回帰


通則法の条文により、ある人の「本国法(例:イギリス法)」を準拠法とすべきと判断された場合でも、そのイギリスの国際私法ルールに照らして「この件は日本法によるべきだ」とされているなら、日本の裁判所は素直に「日本法」を適用します。


  • なぜ反致を認めるのか: 各国で結論がバラバラになることを防ぎ(判決の国際的調和)、また日本の裁判所にとって使い慣れた日本法を適用できるメリットがあるためです。


2. 適用範囲の限定:身分関係の安定(但書)


ただし、第41条には重要な除外があります。婚姻の効力(第25条)、夫婦財産制(第26条1項)、離婚(第27条)、親子間の法律関係(第32条)については、反致は認められません。


  • 理由: これらの身分関係については、当事者の国籍(本国法)を重視して法律を選んでおり、反致によって日本法に引き戻してしまうと、かえって当事者の合理的な期待(自分の国の法律で判断されるだろうという期待)を裏切ることになるためです。


【具体例:イギリス人の相続】


日本に住むイギリス人(イングランド出身)の男性が亡くなりました。


  • 通則法第36条によれば、相続は本国法である「イギリス法」によります。


  • しかし、イギリスの国際私法(分割主義)では、「動産相続については被相続人の最後の住所地法による」とされています。


  • 彼が日本に住所を持っていた場合、イギリス法は「日本法によれ」と言っていることになります。


  • このとき、第41条により、日本の裁判所は「日本法」を適用して相続問題を解決します。


※「隠れた反致」としての第41条


第41条が適用されるのは「本国法」を指定している場合に限られます。第7条や第8条のように「当事者が選んだ法」や「密接関係地法」を指定している場合には、反致は起こりません。反致はあくまで、国籍という強い繋がり(本国法主義)を尊重しつつ、最終的な妥当性を探るための仕組みです,。



第42条(公序)



通則法のルールに従って、ある国の法律(準拠法)が選ばれたとしても、その法律を無条件に適用することが日本の社会常識や基本的な正義感に照らして許されない場合があります。そのための安全装置が「公序(公の秩序又は善良の風俗)」です。


【条文】


外国法によるべき場合において、その規定の適用が公の秩序又は善良の風俗に反するときは、これを適用しない。


1. 「公序」とは何か


国際私法における公序(公序良俗)とは、日本の国内法における公序(民法90条など)よりもさらに限定的な、「日本法の基本的な原則や正義の理念」を指します。


  • 「規定の適用が」という重要性: 外国法の規定そのものが抽象的に悪いかどうかを判断するのではありません。その外国法を「この具体的なケースに当てはめた結果(解決内容)」が、日本の秩序を乱すかどうかで判断されます。これを「結果の具体的妥当性」といいます。


2. 公序が発動される基準


外国法を排除する基準は非常に高く設定されています。単に「日本法と内容が違う」というだけでは不十分で、それを適用することが「日本の法体系の根幹を揺るがす」ほどに衝撃的である必要があります。


【具体例:一夫多妻制の扱い】


ある外国法(本国法)では一夫多妻が認められているとします。


  • ケースA: その国の男性が、日本で二番目の妻と結婚しようとする場合。これは日本の重婚禁止という強い公序に反するため、第42条により外国法の適用が排除され、結婚は認められません。


  • ケースB: その国で既に成立している第一夫人と第二夫人が、夫の死亡後に日本にある遺産の相続権を主張する場合。この場合、相続権を認めること自体は、日本の家族秩序を破壊するほどの結果とはみなされず、公序違反にはならないとするのが一般的な解釈です。


【具体例:あまりに不公平な離婚・親子関係】


一方的な意思表示だけで妻の権利を一切認めずに離婚を成立させるような外国法や、特定の身分(カースト等)を理由に相続権を一切否定するような規定を適用することは、憲法上の平等原則や基本的人権に反するため、第42条によって排除される可能性が極めて高いです。


公序による排除後の「穴埋め」


第42条によって外国法が排除された場合、その部分は「法的な空白」になってしまいます。この場合、一般的には「日本法」が補充的に適用され、解決が図られます。これは、日本の裁判所が最も正義にかなうと考える基準で穴を埋めるということです。


第22条(不法行為の公序)との関係


不法行為のセクションには第22条という個別の公序制限がありました。 第22条は「損害賠償の範囲」などに特化した具体的な防波堤ですが、第42条はそれ以外の全分野(婚姻、相続、契約等)に適用される「最後の砦」です。不法行為であっても、第22条でカバーしきれない事態(例:外国法によるあまりに過酷な処分など)には、第42条が重ねて発動されます。



第43条(適用除外)



通則法は「一般法」ですが、特定の分野(扶養義務や遺言の方式)については、より詳細な国際的なルール(条約に基づく国内法など)が別に存在します。第43条は、それらの法律との衝突を避け、適用範囲を明確にするための規定です。


【条文】


  1. この章の規定は、夫婦、親子その他の親族関係から生ずる扶養の義務については、適用しない。ただし、第三十九条本文の規定の適用については、この限りでない。


  2.  この章の規定は、遺言の方式については、適用しない。ただし、第三十八条第二項本文、第三十九条本文及び第四十条の規定の適用については、この限りでない。


1. 扶養義務の除外(第1項)


離婚した夫への扶養料や、子供への養育費といった「扶養の義務」については、通則法の第5節 親族(第24条〜第35条)は適用されません。


  • なぜ除外されるのか: 扶養については「扶養義務の準拠法に関する法律(扶養準拠法)」という別の法律があり、そこでは「扶養権利者の常居所地法」を優先するなど、より被害者・弱者保護に特化したルールが定められているからです。


  • 第39条本文の例外(復活適用): ただし、扶養の件であっても、第39条(常居所が知れないときは居所地法による)のルールだけは共通して使われます。


2. 遺言の方式の除外(第2項)


遺言がどのような「形(書面、署名、証人など)」であれば有効かというルールについて

も、通則法の法律行為の方式(第10条)などは適用されません。


  • なぜ除外されるのか: 「遺言の方式の準拠法に関する法律(遺言方式法)」という特別な法律があり、遺言者の国籍、住所、行為地など、どこか一つの法律に合っていれば有効とする「有効性を最大限に認めるルール」が優先されるからです。


  • 用語定義の例外(復活適用): ただし、遺言方式法を適用する際にも、「本国法」や

    「常居所」を判断するための技術的な基準として、以下の条文は共通して使われます。


    • 第38条2項本文: 無国籍者の本国法(常居所地法)。


    • 第39条本文: 常居所が不明な場合の居所地法。


    • 第40条: 人的に法を異にする(宗教等)国の法の特定。



※なお、実際の法律問題については、具体的な事実関係に基づき、弁護士等の専門家にご相談されることをお勧めいたします。




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電話番号090-6287-4466

メールアドレス yamamoto.gshoshi21456@gmail.co







 
 
 

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