法の適用に関する通則法「補則」とは?国籍や常居所が複雑な場合の準拠法の決め方を解説(第38条・39条・40条)
国際化が急速に進む現代社会において、「どの国の法律を適用して問題を解決するのか(準拠法)」を決定する「法の適用に関する通則法(以下、通則法)」は、国際的な場面において極めて重要な役割を果たす法律です。海外旅行、個人輸入、国際結婚、さらにはビジネスにおける国際契約に至るまで、私たちの日常生活や社会活動に密接に関わっています。
通則法の基本ルールは前半(第1条〜第37条)で明確に定められていますが、現実の国際社会においては、「国籍が複数ある」「生活の本拠地である常居所が不明である」といったイレギュラーな事象が必ず発生します。通則法の第7節(第38条〜第40条)に定められている補則は、これらの複雑なイレギュラー事象を解決し、最終的な準拠法を確実に決定するための「最終調整ルール」として機能します。
なお、補則の後半部分である第41条(反致)、第42条(公序)、第43条(適用除外)の3つの重要規定については、結論を根本から覆す極めて重要な内容であるため、次回のブログ記事にて単独で完全解説いたします。 本記事では、第38条から第40条における「国籍や住所が複雑な場合の準拠法の決定方法」について、2026年現在の最新の法令に基づき解説いたします。
【目次】

📝 「法の適用に関する通則法・補則」重要な3つのポイント
✅ 二重国籍や無国籍、常居所不明といった極めて複雑な状況下においても、通則法の補則(第38条〜第40条)を適用することで、準拠法(適用される法律)の決定方法を最終的かつ明確に特定することが可能です。
✅ 日本と他国の国籍を複数持つ場合(二重国籍・多重国籍)は、通則法第38条第1項但書の規定により、いかなる事情があっても「日本法」が最優先の本国法として適用される強力な原則が存在します。
✅ インドのように同一国内で宗教や人種によって法律が異なる国(複合国)の出身者については、通則法第40条の規定に従い、その国の指定規則、または個人の信仰や所属する種族の慣習法に基づく法律が厳密に適用されます。
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🌍 国際化社会に不可欠な「法の適用に関する通則法」
グローバル化が進む現代において、「法の適用に関する通則法」は、国際的な場面で「どの国の法律を適用するのか(準拠法)」を決める極めて重要な法律です。
通則法の前半(第1条〜第37条)で基本ルールを定めますが、現実の国際社会では「国籍が複数ある」「常居所が不明である」というイレギュラーが必ず発生します。第7節(第38条〜第40条)の補則は、これらのイレギュラーを解決するための最終調整ルールとして機能します。

⚖️ 第38条:二重国籍・無国籍者の「本国法」の決定基準
通則法では個人の身分関係(婚姻の成立、婚姻の効力、夫婦財産制、離婚、嫡出である子の親子関係の成立、嫡出でない子の親子関係の成立、準正、養子縁組、離縁、親子間の法律関係、その他の親族関係、後見、保佐、補助の14の法律行為すべて)を規律する法律として「本国法(国籍がある国の法律)」が頻繁に登場しますが、国籍が複数ある人や、無国籍の人の本国法は以下の厳格な基準で決定します。
1. 二重国籍・多重国籍の場合(第38条第1項)
国籍を複数持つ場合、本国法は以下の優先順位で決定されます。
■ 日本優先の原則(但書)
複数の国籍の中に「日本」が含まれていれば、他の事情(居住地や滞在期間)を一切問わず日本法を本国法とします。
■ 常居所地優先
日本国籍を持たない場合、国籍を持つ国のうち、実際に継続して住んでいる「常居所」がある国の法律を本国法とします。
■ 密接関係地
どの国籍の国にも常居所がない場合、当事者と「最も密接な関係がある国」の法律を本国法とします。
⚠️ 【現場のリアルな声(実務でのよくある失敗例)】
国際結婚をした夫婦の間で、「現在は海外に住んでいるから現地の法律が適用される」と思い込んでいるケースが非常に多く見られます。しかし、当事者の一方が日本国籍を保持している限り、前述した14の身分関係の基本は日本優先の原則により日本法が適用されるため、手続きの順番や必要書類を見誤り、後々日本での戸籍反映が遅れるトラブルが絶えません。
2. 無国籍の場合(第38条第2項)
国籍を持たない人の場合は、国籍の代わりに「常居所地法(普段住んでいる場所の法律)」を本国法とみなします。
⚠️ 除外規定に関する注意点
ただし、婚姻の効力(第25条)および親子間の法律関係(第32条)の2つの規定においては、この常居所地法を本国法とみなすルールの適用は除外され、それぞれの条文の規定が直接適用されます。
3. 法域が分かれている国の場合(第38条第3項)
アメリカ合衆国やカナダにおいて、州や地域によって法律が異なる場合は、その国の指定規則に従います。 規則が存在しない場合は、当事者に最も密接な関係がある地域の法律を本国法とします。
■ 具体例:日米二重国籍者の相続
日本とアメリカ合衆国の両方の国籍を持つCさんが亡くなりました。第38条第1項但書により、Cさんに日本国籍がある以上、本国法は日本法となります。したがって、遺言の方式を除く相続の準拠法も日本法が適用されます。

🧳 第39条:居場所が定まらない場合の「常居所地法」
通則法において「常居所」とは、ある程度の期間にわたって継続的に居住し、生活の本拠となっている場所を指します。本人が世界を転々としており常居所が特定できない場合、第39条が適用されます。
🏨 1. 「居所地法」への段階的降格
常居所が客観的に存在しない場合、あるいは調査を尽くしても判明しない場合、現在実際に留まっている場所である「居所地法」を適用します。
⚠️ 2. 重要な例外:婚姻関係への不適用
以下の3つの事案については、居所地法への切り替えは絶対に行いません。
✅ 婚姻の効力(第25条)
✅ 夫婦財産制(第26条第1項)
✅ 離婚(第27条)
たまたま滞在している場所の法律を適用すると、夫婦関係の安定を著しく害する恐れがあるためです。
⚠️ 【現場のリアルな声(実務でのよくある失敗例)】
外国人配偶者が家出し、行方も常居所も完全に不明となった状況での離婚請求において、「今現在自分が住んでいる日本の法律(居所地法)で簡単に離婚できる」と誤解される方がいます。しかし、離婚(第27条)において居所地法への切り替えは禁止されているため、準拠法の特定と管轄権の確認には極めて高度な法的調査が必須となります。
■ 具体例:住所不定の外国人による不法行為
日本国内で、常居所を持たずホテルを転々としている外国人が、交通事故による人身損害、器物損壊、暴行傷害、製造物責任(欠陥商品による損害)、名誉の毀損、または信用の毀損のいずれかの不法行為を起こした場合、常居所が不明であるため、現在滞在している居所地法(日本法)が準拠法として適用されます。

🕌 第40条:宗教や人種で法律が異なる国の扱い
インドにおいてイスラム教とヒンドゥー教で適用法が異なる事象のように、同一国内で宗教、種族、所属する部族、または身分階級によって適用される法律が異なる「人的法」を採用している国のルールです。
📖 1. 本国法および常居所地法の特定
まずその国の指定規則に従います。規則がない場合は、当事者が信仰している宗教の法律、または所属する種族の慣習法のうち、最も密接な関係がある法律を本国法とします。夫婦関係や親子関係で常居所地法を適用する場合も、同一の手順で具体的な法律を特定します。
■ 具体例:インド国籍の男性の相続
インド国籍の男性が亡くなり相続が発生した場合、通則法第36条により本国法(インド法)が選ばれます。第40条第1項により、彼がヒンドゥー教徒であれば「ヒンドゥー相続法」が準拠法として特定されます。
📝 事前準備と要件確認チェックリスト(10項目)
本記事で解説した通則法の規定に基づき、準拠法を特定するための事前要件確認リストです。
✅ 当事者が二重国籍または多重国籍を持っていないか確認する
✅ 複数の国籍の中に「日本国籍」が含まれているか確認する
✅ 日本国籍を持たない場合、国籍を持つ国のうち継続して居住する「常居所」があるか確認する
✅ どの国籍の国にも常居所がない場合、当事者と最も密接な関係がある国はどこか確認する
✅ 当事者が無国籍である場合、普段生活している常居所地はどこか確認する
✅ 当事者の国籍国が、州や地域で法律が異なる法域が分かれている国(アメリカ合衆国やカナダ)か確認する
✅ 法域が分かれている国の場合、その国の「指定規則」が存在するか確認する
✅ 常居所が客観的に存在しない、または調査を尽くしても判明しないか確認する
✅ 当事者の国籍国が、宗教、種族、所属する部族、または身分階級によって適用される法律が異なる「人的法」を採用している国(インド)か確認する
✅ 人的法を採用している国である場合、当事者が信仰している宗教、または所属している種族は何か確認する
📋 行動と手順用ToDoリスト(10項目)
要件確認後、実際に準拠法を決定するための法的手順リストです。
■ 日本国籍が含まれる二重国籍・多重国籍者の場合、居住地や滞在期間を問わず日本法を本国法として適用する
■ 日本国籍以外の複数国籍者の場合、常居所がある国の法律を本国法として適用する
■ 複数国籍で常居所もない場合、当事者と最も密接な関係がある国の法律を本国法として適用する
■ 無国籍者の場合、国籍の代わりに常居所地法を本国法とみなして適用する
■ 無国籍者であっても、婚姻の効力(第25条)および親子間の法律関係(第32条)の規定においては除外規定に従う
■ 州によって法律が異なる国の場合、その国の指定規則に従い、規則が存在しない場合は最も密接な関係がある地域の法律を本国法とする
■ 常居所が特定できない場合、現在実際に留まっている場所である居所地法を適用する
■ 婚姻の効力(第25条)、夫婦財産制(第26条第1項)、離婚(第27条)の3つについては、居所地法への切り替えは絶対に行わない
■ 宗教や人種で法律が異なる国の場合、まずその国の指定規則に従って適用法を特定する
■ 指定規則がない場合は、当事者が信仰している宗教の法律、または所属する種族の慣習法のうち、最も密接な関係がある法律を本国法とする

❓ 通則法の補則(第38条〜第40条)に関するよくある質問
Q1. 日本と外国の二重国籍を持つ人の本国法は、どの国の法律になりますか?
複数の国籍の中に日本国籍が含まれている場合は、居住地や滞在期間を一切問わず、必ず日本法を本国法として適用します。これは通則法第38条第1項但書に規定された強力な原則であり、日本法が最優先されます。
Q2. どの国の国籍も持たない無国籍者の本国法は、どのように決定されますか?
国籍を持たない人の場合は、国籍の代わりに普段生活している場所の法律である常居所地法を本国法とみなして適用します。ただし、婚姻の効力および親子間の法律関係においては除外規定が適用される点に注意が必要です。
Q3. 日本国籍を持たず、複数の外国籍を持つ人の本国法はどのように決定されますか?
日本国籍を持たない複数国籍者の場合、国籍を持つ国のうち、実際に継続して居住している常居所がある国の法律を本国法とします。常居所もない場合は、当事者と最も密接な関係がある国の法律を適用します。
Q4. アメリカ合衆国のように州によって法律が異なる国の出身者の準拠法は、どのように決まりますか?
法域が分かれている国の場合は、まずその国の指定規則に従って適用法を決定します。指定規則が存在しない場合は、当事者に最も密接な関係がある地域の法律を本国法として適用します。
Q5. 世界を転々としており、生活の本拠地である常居所が全く不明な場合はどうなりますか?
常居所が客観的に存在しない、または調査を尽くしても判明しない場合は、現在実際に留まっている場所の法律である居所地法を常居所地法の代わりに適用します。ただしこれには重大な例外が存在します。
Q6. 常居所が不明な場合、離婚手続きにも今いる場所の法律(居所地法)が適用されますか?
適用されません。婚姻の効力、夫婦財産制、離婚の3つについては、夫婦関係の安定を著しく害する恐れがあるため、現在たまたま滞在している居所地法への切り替えは絶対に行われません。
Q7. インドのように宗教や種族によって適用される法律が異なる国の場合は、どのように判断されますか?
宗教、種族、所属する部族、または身分階級によって法律が異なる人的法を採用している国の場合は、その国の指定規則に従います。規則がない場合は、当事者が信仰している宗教の法律、または所属する種族の慣習法のうち、最も密接な関係がある法律を本国法とします。
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